MedDRAR 考慮事項:コンパニオンドキュメント
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公表版3.0 |
免責および著作権に関する事項 本文書は著作権によって保護されており、如何なる場合であっても文書中にICHが版権を有することを明記することによって公有使用を許諾するものであり、複製、他文書での引用、改作、変更、翻訳または配布することができる(MedDRAおよびICHのロゴは除く)。本文書を多少とも改作、変更あるいは翻訳する場合には、原文書の変更あるいは原文書に基づくものであると、明確に表示、区分あるいは他の方法で識別できる合理的な手順を踏まえなければならない。原文書の改作、変更あるいは翻訳がICHによって推奨あるいは支持されるものであるという印象は如何なるものであっても避けなければならない。 本文書資料は現状のまま提供され、一切の保証を伴わない。ICHおよび原文書著者は、本文書を使用することによって生じる如何なる苦情、損害またはその他の法的責任を負うものではない。 上記の使用許可は、第三者組織によって提供される情報には適用されない。したがって、第三者組織に著作権が帰属する文書を複製するには、その著作権者から承諾を得なければならない。なお、MedDRARの登録商標はICHとして登録している。 |
本資料の日本語版は、ICHのPtC-WGの国内メンバーの協力を得て、JMO事業部が翻訳したものである
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第1章 はじめに
MedDRA用語選択:考慮事項(MTS: PTC)およびMedDRAデータ検索及び提示:考慮事項(DRP: PTC)は、すべてのMedDRAユーザーにとって有用なガイダンスであり、一般的な用語選択やデータ検索の原則はもちろん、用語選択や分析に取り組むにあたっての明確な例示を提供している。しかし、トピックによっては、MTS: PTC および DRP: PTCで網羅されている内容よりさらに詳細な情報が、MedDRAを使うにあたってユーザーの助けとなる場合がある。
このコンパニオンドキュメントの目的は、グローバル規制上重要でMedDRAに関連する特別なトピックにより詳細な情報、例示およびガイダンスを提供することによって上述の二つの考慮事項(PtC)の文書を補完することである。これはICHの管理委員会(MC)の指示により設けられたPtC文書を作成・維持管理するワーキンググループによって作成・維持管理される。このワーキンググループは、ICHに加盟の規制当局と業界団体、WHO、MSSO、JMOの代表で構成されている。
このコンパニオンドキュメントは随時更新されるリビングドキュメントであり、MedDRAのリリースに連動するよりは、むしろユーザーの要望を基に改訂が行なわれる。このコンパニオンドキュメントは、英語と日本語で入手できる。しかし、国内向けに適切でない例示や日本語訳が困難な例示の場合、それらは日本語版には含まれない。
このドキュメントの内容は全てのICH加盟組織により合意されており、規制上の要件を明記するものではなく、またデータベース関連の問題を取り上げるものでもない。各組織は、独自のコーディングやデータ検索について、PtC文書と整合性が取れている組織独自のガイダンス中に詳細に記載することが奨励される。
MSSOユーザーはMedDRA考慮事項コンパニオンドキュメントについての質問やコメントはMSSOヘルプデスクに問合せされたい。
JMO注):本文書に関するJMOユーザーの質問やコメントは、JMO Website(https://www.jmo.pmrj.jp/)のヘルプデスクに問い合わせされたい。
第2章 データの質
本章では、臨床試験および市販後の両環境下におけるMedDRA使用に関連した重要なデータ品質やデータ入力の原則について論議する。規制上の要件、データベース構成上の問題、ファイル形式の慣例、データの業務フロー・アプリケーションやMedDRAの範疇を越える他のトピックについては言及しない。
ヒトに用いられる医療用製品の開発および市販後の両段階において、データ収集は必須かつ継続するプロセスである。MedDRA用語選択:考慮事項(MTS:PTC)文書に記述されているように、報告されたオリジナル情報の質は出力されるデータの質に直接影響を及ぼす。
| 高品質データの 入力 |
⇒ | 高品質データの 出力 |
データは、医薬・医療用製品(biopharmaceutical products)の安全性・有効性に関する推測、仮説の検証、結論付け、陳述や知見を報告することに用いられる。データは、コーディング(用語選択)から情報の分類、検索、分析および提示までの範囲の活動に用いられることから、高品質データの入手を可能とすることが最も重要である。高品質のデータは、シグナル検出、データ解析や製品表示の作成を含む製品の安全性面をサポートする。本章では、組織的なデータ品質の戦略の一端となるいくつかの実践とプロセスについて記述する。
2.1 データ品質の重要性
規制対象の製薬企業業界(regulated biopharmaceutical industry)が、安全性報告関連規制とその標準化について更なる調和を追及する中で、安全性調査およびデータの質をますます重要視している。患者/被験者の安全性の支援に加え、データの質が向上することよって、臨床研究および市販後の業務プロセスに関わるもの(規制機関、スポンサー企業、研究施設職員および医薬品販売承認取得者を含む)に対する完全かつ正確な情報伝達を促進できる。高品質データの収集により、結果的に製品開発期間および市販後における時間効率と費用対効果の更なる向上をもたらす(例.不完全なデータに対する問い合わせの減少、施設モニタリング経費の削減、製造販売承認取得遅延のリスク低減)。
有害事象データの質は、臨床試験における安全性モニタリング、製造販売承認申請時のリスクアセスメントや市販後データにおける安全性シグナル評価の根幹となる。通常、有害事象は、臨床試験の被験者や患者もしくは患者の介護者さらに医療専門家により報告される。これらの報告用語(verbatim term)には、手動またはオートエンコーダによって自動でMedDRA 下層語(LLT)が用語選択されるが、利用者はその際に、特異性の低いLLTも存在するので、報告情報を更に具体的に明確化する必要があることも認識するべきである。用語選択における小さなずれが、深刻な問題をもたらし、誤った解析結果につながりかねない。用語選択は、一見単純な症例であっても、実は様々な選択となり得る。この多様性を考慮すると、有害事象データを慎重に評価することが重要である。
2.2 高品質のデータの特性
高品質のデータにはいくつかの共通点がある。まず、これらのデータは、完全かつ正確でなければならない。可能な限り常に、完全性と正確性に妥協することなく、最も簡潔な形態のデータが収集されるべきである。組織において、データの質は、網羅性、一貫性、透明性、データ処理プロセスの文書化によって培われる。高品質のデータは、当然ながら、入手可能な情報で支えられている。例えば、臨床診断は、得られた病歴、身体所見、臨床検査結果と一致すべきである。さらに、適切な場合には、高品質のデータはデータに関する関連付けをサポートできる(例.製品との関連ありと判定された有害事象の因果関係評価)。
2.3 データ品質の戦略におけるMedDRA の役割
臨床開発および製造販売後のファーマコビジランス(postmarketing surveillance)の両方において使用される、標準的で検証された臨床用語集として、MedDRA は適切なデータ品質の戦略上、重要な役割を持っている。MedDRA はデータ入力のプロセスにおいて、情報記号(「コード」)として使用されることから、最も特異的かつ分析の質が高くなる用語選択を行うために、MTS:PTC 文書中の原則を考慮することが重要である。用語選択に使用可能な多数のLLTによって、高い粒度がもたらされているが、このMedDRAの粒度をもってしても、低品質(“low quality”)な一次情報を克服することはできない。
2.4 組織としてのデータ品質戦略を構成する要素
組織としてデータ品質戦略を策定し実施することは、多数の利害関係者からの意見収集、支援および協力を必要とする複雑な作業である。高品質なデータ収集に関する原則の多くは、臨床試験および市販後の両面においても同様である。本項では、高品質のデータを入手するための枠組みについて言及する。
2.4.1 データ収集
臨床試験、製造販売後の安全性業務コールセンター、診療所のいずれにおいても、完全かつ正確な情報を入手する機会は1回限りであることが多い。出力されるデータの質はデータベースに入力されるデータの質によって決定されることから、これらの初動段階が重要な影響を及ぼす。これらの収集された情報(例.臨床試験実施施設の医師・看護師、製造販売後のコールセンター従業員、調剤薬剤師および救急医)においては、以下の方法が収集データの質の最大化に役立つ。
l データ収集プロセスにおいて、重要でない情報を収集するリスクに備えてデータの完全性と正確性を重要視する必要がある。これは特に時間の制約がある場合に当てはまる。有害事象のような重要な概念を格納する専用のデータフィールド中には重要でない情報の量を減少させることが望ましい。さもなければ、データコーディングとデータ管理がさらに複雑化する。
l 臨床試験においては、報告者が類似の医学概念を記述するために一貫性がある医学用語集の使用を促進すべきである。このような状況を確保するための最もよい方法の一つは、データ収集の一貫性の重要性について試験施設職員(とくに臨床試験責任者)に対して入念に説明をすることである。
l 臨床試験におけるデータ収集手段(電子的あるいは紙の症例報告書のいずれであっても)は、必要な情報の全てを入手するために、使いやすく、永久的、かつ十分に包括的であるように注意深くデザインすべきである。個々の臨床試験もしくは臨床研究は何年にも及ぶことから、高品質のデータ収集ツールを開発するために多くの時間を費やすことは全く不可能である。データ管理、情報技術、統計学、品質保証や法規制遵守におけるそれぞれの適切な専門家を、計画の各段階を通して参画させるべきである。開発段階に入って数年も経過すると、適切に収集されなかった必要なデータを補うことは不可能でないにしても困難である。
l 時間が経つにつれて、不完全な情報を明確にするための追加情報入手の可能性は低下し、報告者の重要な事象についての記憶が劇的に変更されることがある。それ故、情報源から明確な情報を入手するクエリー(“query”)プロセスをできる限り速やかに開始することが極めて重要である。
? 報告に複数の診断が含まれている場合(例.「指骨折と手の擦過傷」や「膀胱閉塞と膀胱炎」のような報告)、これらは概念を分割してデータ収集様式に記録することが通常、適切である。
? スペルミスおよび略語と頭字語の使用については最小限に抑えるべきである。以下の表に、不十分もしくは曖昧なデータなど、解釈に困難を伴う例を示す。
| 報告語 | データ品質上の問題 |
| MIを起こした(Had MI) | MI は心筋梗塞(myocardial infarction)、僧帽弁不全(mitral insufficiency)、精神疾患(mental illness)あるいは腸間膜虚血(mesenteric ischaemia)のいずれを表しているのか不明 |
| Interperial | 「Interperial」は「腹腔内(“intraperitoneal”)」 または「会陰内(“intraperineal”)」のいずれを意味しているのか不明 |
| ニトロ点滴(Nitro drip) | Nitro dripはニトログリセリン(nitroglycerin)またはニトロプルシド(nitroprusside)のいずれの点滴静注を表しているか不明 |
? さらに、適切な前後関係の文脈がない場合、以下の表に記述されている曖昧(“vague”)な用語を解釈することは不可能である。
| 報告語 | データ品質上の問題 |
| うっ血(Congestion) | 鼻閉、肝臓うっ滞あるいは静脈うっ滞などのどれか不明 |
| 閉塞(Obstruction) | 閉塞部位は気管支、腸、尿道などのどれか不明 |
| 梗塞(Infarction) | 心筋梗塞、脳梗塞あるいは網膜梗塞などのどれか不明 |
このような用語の明確化は情報収集時に依頼すべきである。
2.4.2 MedDRAコーディング:考慮事項
MedDRA は、報告されたあらゆるタイプの情報を正確にコーディングすることに用いることができる。それは、副作用・有害事象を示す診断、徴候、症状だけでなく、病歴、社会歴、製品使用の適応(症)、医療機器に関連した事象、外科および内科処置、臨床検査、曝露、誤用と乱用、適応外使用、投薬過誤、製品品質に関する問題や製造および品質システムの問題のような概念を含む。意味のあるデータレビューのために、すべての必要な情報について一貫性のあるコーディングを確実に行うことが重要である。重要なデータ品質における考慮事項を以下に示す。
● MedDRA コーディングに責任を有する者は、専門用語に精通し、かつそれを効果的に利用するために必要なトレーニングを受講するなどの手段を確保しておくべきである。MTS:PTC(MedDRA用語選択:考慮事項) 文書のコーディング原則に特に注意を払い、このPTCコンパニオンドキュメントのにある例示でサポート。多数の者がMedDRA でのコーディングを実施する環境下においては、組織としてコーディングに一貫性を持たせることが重要である。
● 適切に訓練された者がMedDRAコーディングの結果をレビューすべきである。
● 報告されたすべての有害事象および副作用を、因果関係の有無に関係なくコーディングすることが重要な概念である。同様に、徴候・症状のみが報告された場合、診断を表す用語を選択することによって情報を追加してはならない(MTS:PTC 2.10参照)。
● 報告された情報を正確にコーディングすることは重要である。報告用語よりも特異性が低い、あるいは厳密でない概念の用語を選択することは不適切である(例.「痙攣発作」に対するLLT「身震い」や「腹膜炎」に対するLLT「腹痛」の選択)。
● MTS:PTC 文書では、とくに徴候・症状を伴う暫定および確定診断に関連する問題については、「好ましい(“preferred”)用語のコーディング」に従うことが推奨されている。MTS:PTC文書に基づき、「代替(alternate)の用語のコーディング」を用いた場合、代替コーディングの選択に一貫性をもたせるために、それを選択した理由を記録することが適切である。
● 臨床検査室および検査の用語(SOC「臨床検査」に含まれる)と医学的状態(主に主要発現部位のSOCに含まれる)を区別することは重要である。
● 報告者が使用した用語は一つ以上の医学的概念(例.「転倒と挫傷」)を含んでいるかもしれない。どの報告事象にも適切なコードを考慮することが重要である。
● すべての報告された情報を表現する、単一のLLTがMedDRA用語に含まれていない場合、二つ以上の用語でコーディング(“split coding”)を行うことも考慮すべきである(MTS:PTC 2.8 および3.5.4参照)。
● 組織によっては、報告用語を事前に決めたLLTにコーディングできるように「報告用語のシノニム(“synonym”)リスト」を作成し利用する場合もある。組織内シノニムリストの例を以下に示す。
| 報告語 | 選択されたLLT |
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頭全体の痛み(Aching all over head) 頭部の拍動性の痛み(Pulsing pain in head) ひどい頭痛(Terrible headache) 頭部が破裂するような感覚(Feeling like head is exploding) |
組織内シノニムリストによって、これらの報告語はLLT「頭痛」を用いてコーディングしてもよいとされることがある。 |
JMO注):用語の追加変更要請についても考慮すること。
シノニムリストは、一貫性のある効率的なコーディングをサポートするのに役立ち、ある状況では、例えばオートコーディング・システムと組み合わせて使用される場合や、コーディングがいくつかの地域別サイトで行われる時に特に有用である。シノニムとして選択された用語が、コードされた医学概念に対して、正しいシノニムであることを保証することが重要である。
● また、ユーザーは、組織のバージョン戦略においてシノニムリストのメンテナンスに取り組むべきである。
内科的/外科的処置は、一般的には有害事象ではない。しかしながら、処置のみが報告された場合は、処置に対する適切な用語をコーディングする(MTS:PTC 3.13.1参照)。一方、処置が診断と組み合わされて報告された場合には、好ましい選択肢は処置と診断の双方の用語を選択することである。また、診断を示す用語のみ選択することも可能である(MTS:PTC 3.13.2参照)。組織によっては、有害事象と処置を別々のデータフィールドに分けたデータ収集フォームを有しており、これはデータを適切なカテゴリーに入力するのに役立つ。
● 死亡、障害、入院などは安全性報告の関連では転帰あるいは重篤性の基準と考えられ、有害事象とはみなされない。従って、通常、転帰はMedDRA 用語ではコーディングされない。それらは、代わりに転帰に対する適切なデータフィールドに記録される。この推奨の例外の一つは、唯一報告された情報が、死亡、障害、または入院の場合である。これらの概念は、その原因の明確化に努める間、MedDRA用語でコーディングする(更なる情報はMTS:PTC 3.2参照)。それに加え、重要な臨床情報を含んでいる死亡に関する用語(例.LLT「てんかんにおける原因不明の突然死」、LLT「胎児死亡」)は報告された副作用/有害事象(AR/AE)とともに選択すべきである。
● 入手した情報が曖昧、不明瞭あるいは矛盾している場合、より明確な情報の入手を試みている間、以下の例に示すMedDRA 用語をコーディングできる。
曖昧な情報(MTS:PTC 3.4.3参照)
| 報 告 語 | 選択されたLLT | コメント |
| Appeared red | 評価不能の事象 (Unevaluable event) | 「Appeared red」との報告のみでは曖昧である。患者の外観か製品(例えば錠剤、溶液など)の外観かさえも判別できない。 |
不明瞭な情報(MTS:PTC 3.4.2参照)
| 報 告 語 | 選択されたLLT | コメント |
| 患者は ARの病歴があった | 不明確な障害 (Ill-defined disorder) | どのような医学的状態(大動脈弁逆流(aortic regurgitation)、動脈再狭窄(arterial restenosis)、アレルギー性鼻炎(allergic rhinitis))が患者にあったのかが不明なのでLLT「不明確な障害」を選択する。 |
矛盾する情報(MTS:PTC 3.4.1参照)
| 報 告 語 | 選択されたLLT | コメント |
| ヘモグロビン19.1 g/dLを伴う重度の貧血 | ヘモグロビン異常 (Hemoglobin abnormal) | LLT「ヘモグロビン異常」は、報告された両方の概念を示す。(注: ヘモグロビン値 19.1 g/dLは高値であり、重度の貧血でみられる低値ではない) |
2.4.3 研修
適切で継続性のある研修は高品質のデータ戦略の鍵を握る部分である。研修は、情報の収集、転記、分類、入力、用語選択およびレビューに関与するすべての関係者に対して実施すべきである。組織的な研修の実施方法や手順は、文書化して記録すべきであり、必要な更新を行うために継続的にレビューを行うべきである。研修は、これらの標準手順に精通し、基準の順守に注意を払うことに知識を有する適任者によって適切に実施すべきである。主要な職務のクロス・トレーニングは、取り組みの一貫性を確保し、予測できない人事異動の期間中においてもデータの品質を維持するために望ましい。
臨床試験の実施が不慣れな施設や、遠隔地にある施設を使用することがある組織の場合、臨床試験実施施設の担当者[例.臨床試験担当医、看護師、臨床試験コーディネーター(CRC)、臨床開発モニター(CRA)、薬剤師]に対して、試験実施に必要なすべての側面における十分な研修を確保することも重要である。研修例を以下に示す。
● 適用されるデータ収集手段の正しい使用方法
● 臨床試験被験者・患者への問診における適切な手法の研修[例.間接質問、徴候・症状の羅列よりも診断された有害事象報告(可能であれば)、あるいは盲検解除を回避するための予防策]
● 高品質なデータ収集に関連した規制事項の知識
● 用語選択の目的でのMedDRA使用に必要な知識(該当する場合)。例えば用語選択における確定診断 対 暫定診断(症状を伴う場合と伴わない場合がある)や診断の推論をしないことはとくに重要である。
● 情報を明確化するため、組織体で合意された詳細調査(“data query”)のプロセスを十分に理解し遵守すること
その他の有用な資料としては、MedDRA ウェブサイト“Training Materials”ページ(https://www.meddra.org/training-materials)の‘General/Basics’の項から参照できる“Data Quality、Coding and MedDRA”がある。このカスタマイズ可能なスライドセットは、臨床試験医師向け説明会やデータ収集に関与する部門(CRAやCRCなど)に対する研修に使用することを意図している。MedDRA が関与している高品質のデータの重要性と有益性についての概要が示されている。
2.4.4 品質保証の確認
熟慮された徹底した品質保証(QA)プロセスは、データ品質の最大限に高めるという目標達成を可能にする。データマネジメントプロセスでのQA チェックは、確立された組織的な手順と評価基準の準拠を確保する。QAチェックによって確認されたMedDRA 用語の不正確な選択例を以下に示す。
| 報 告 語 | 不適切なLLT選択 | QAレビューの結果 |
| CAT スキャンアレルギー (Allergic to CAT scan) | ネコアレルギー (Allergic to cats) | この不正確なLLT 選択は、報告語の「Allergic to CAT scan」という単語が、オートエンコーダが選択した用語と一致したことを反映したものである。 |
| 眼に圧迫を感じた (Feels pressure in eye) | 眼圧 (Intraocular pressure) | この不正確な LLTは眼圧のための検査用語である。報告で述べられた症状を反映する適切な用語はLLT「眼圧迫感 (Sensation of pressure in eye)」である。 |
これらのチェックにより、データベースが固定され、誤ったデータがデータ解析に利用される前にMedDRA 用語の選択間違いを確認できる。
MSSO がメンテナンスしている「修飾語が付いていない検査項目名リスト (Unqualified Test Name Term List)」はSOC「臨床検査」に包含されるPT及びLLTレベルでの修飾語が付いていない検査項目名を包括的に収集したリストである。修飾語が付いていない検査項目名リスト*はMedDRAウェブサイトの“Support Documentation”のページで見ることができる。臨床試験やファーマコビジランスのデータベースにおけるQAチェックとして規制当局や産業界で利用することができる。修飾語が付いていない検査項目名(例.LLT「血中ブドウ糖」、LLT「CATスキャン」)はAR/AE を表していないが、データベースにおける特定のデータフィールドにおいて価値をもつことを意図している。例えば、ICH E2B個別症例安全性報告を伝送するためのデータ項目「患者の診断に関連する検査及び処置の結果」の欄に、修飾語が付いていない検査項目名を検査項目名のデータ要素として記録することに用いられる。修飾語が付いていない検査項目名は、AR/AEなどの情報を記録する他のデータフィールドにおける利用を意図したものではない。「修飾語が付いていない検査項目名リスト」は、用語選択の質をチェックする標準ツールとしての推奨のみを意図している。
* JMO注):修飾語が付いていない検査項目名リスト(英語・日本語版)は、JMO Website(https://www.jmo.pmrj.jp/document )の "レファレンスドキュメント" の項目より入手可能である。
2.4.5 MedDRAバージョン管理の戦略
年2回のMedDRA 新バージョンのリリースを考慮し、MedDRA を利用している組織はそれらの改訂に対処するため、文書化されたバージョン管理の戦略を保有しておくべきである。MSSO は下記の表題の資料を含むBest Practice文書を作成している。
* 臨床試験におけるMedDRA の実装とバージョン管理に関する推奨事項
* 年2回のバージョン管理を通じた個別症例報告に関する 推奨事項
このBest Practice文書*はMedDRA ウェブサイトの “Support Documentation”ページ(https://www.meddra.org/how-to-use/support-documentation)から参照できる。
MSSO では、任意の二つのMedDRA バージョン間(連続しないものにも対応)での変更の影響を特定し理解することを支援するツールとしてMedDRA Version Analysis Tool(MVAT)** も提供している(MTS:PTC 付録4.2参照)。
* JMO注):Best Practice文書はJMO Website(https://www.jmo.pmrj.jp/)の会員の方サイトから "MedDRA/Jデータ・関連文書" ページより入手可能である。
** JMO注):JMO会員がMedDRA Version Analysis Tool(MVAT)を利用する場合は、JMO Website(https://www.jmo.pmrj.jp/)の会員の方サイトから "MedDRA関連ツール" のページからもアクセス可能である。
第3章 投薬過誤
この章の目的は、MedDRA用語選択:考慮事項(以下、MTS:PTC)の投薬過誤の項をより発展させることであり、投薬過誤と考えられるシナリオ*、あるいは投薬過誤に関する情報が含まれるシナリオまたは投薬過誤と混同されるシナリオについてのガイドを提供している。さらに、これらのシナリオに基づいた用語選択のガイダンスと例示を提供している。この本章は二つのパートからなり、初めのパートでは投薬過誤の用語選択について、「よくある質問 (FAQ)」へ回答し、二つ目のパートでは投薬過誤の用語選択について例示を提供する。なお、例示の用語はバージョン27.1に基づく。
本文書はリビングドキュメントであり、内容はユーザーからのフィードバックに基づき改訂が行われる。MSSOユーザーはMedDRA考慮事項コンパニオンドキュメントについての質問やコメントはMSSOヘルプデスク**に問合せされたい。
* JMO注):ここで示す「シナリオ」は、英語原文のscenarioをそのまま訳出したもので、報告者から報告された概要・筋書きを意味している。なお、シナリオが示す例示は、MTS:PTCと同様、すべての地域の規制状況あるいは実情を反映したものではないかもしれない。また、本文書は、各規制当局への報告の必要条件やデータベース関連事項を解説することを目的としたものではない。
** JMO注):本文書に関するJMOユーザーの質問やコメントは、JMO Website(https://www.jmo.pmrj.jp/)のヘルプデスクに問い合わせされたい。
謝辞
PtC-WGは、本文書の本章に対して多大な貢献を果たした下記の方々に深謝致します。
Manish Kalaria, Physician, CDER, Office of Surveillance and Epidemiology, FDA, United States
Jo Wyeth, Associate Director, CDER, Office of Surveillance and Epidemiology/Office of Medication Error Prevention and Risk Management, FDA, United States
Georgia Paraskevakos, Patient Safety Specialist, Health Canada
背景
本文書で、投薬過誤は薬物使用プロセス(medication use process)においてのみ発生し、このプロセスには、調達、保管、処方、転記、選択、調製、調剤、投与、モニタリングなど製品が保健医療システム(healthcare system)に導入された後の活動が含まれる。薬物使用プロセスには、製造者の流通や保管(卸売業者まで)を含む製造プロセス全体に関連する活動は含まない。第4章および第5章で説明する。製造プロセスでの過誤は、製造の問題であり、投薬過誤ではない。しかし、影響を受けた製品が薬物使用プロセスにある場合、製造上の問題は、有害事象や投薬過誤のどちらか、あるいは両方の結果を生ずる可能性がある。
用語選択の目的で、投薬過誤を表す用語はHLGT「投薬過誤、その他の製品使用過誤および問題 (Medication errors and other product use errors and issues)」(バージョン20.0以降)にグループ化されている。しかし、他のMedDRA階層に配置された用語も、投薬過誤が記述されている症例の用語選択に使用できる。そこで、広く分散している用語による検索を支援するために、狭域および広域検索によって投薬過誤が疑われる症例を包括的に検索するための標準的なツールとして、MedDRA 標準検索式「投薬過誤(SMQ)*」が開発された。
* JMO注):MedDRA 標準検索式(SMQ)手引書の2.65「投薬過誤(SMQ)」(2016年3月正式リリース)も参照されたい。また、MedDRA用語選択:考慮事項3.15.1「投薬過誤」も参照すること。
報告された投薬過誤を最も具体的なLLTでコーディングすることが重要である。投薬過誤のPTsにリンクしたLLTsは単なるシノニム用語というだけではなく、しばしばより具体的な情報を含んでいる。例えば、薬物使用プロセスのある段階を反映する過誤のPTsは、その段階で起こる過誤の具体的なタイプについてのLLTsが含まれていることがある。
HLGT「投薬過誤、その他の製品使用過誤および問題 (Medication errors and other product use errors and issues)」は多くの用語から成っている
● 過誤のタイプを示す用語 [例.LLT「誤った薬剤」(Wrong drug)]
● 投薬使用プロセス(medication use process)のある段階での特定の(過誤に関する用語[例.LLT「製品処方過誤および問題(Product prescribing error)」]
● 薬物使用プロセスのある段階と過誤のタイプを組み合わせた用語;これら用語は厳密にLLT[例.PT 「製品処方過誤(Product prescribing error)」即ち、ある特定の段階でのPTの下位のLLT「誤った薬剤の処方(Wrong drug prescribed」]である場合やLLTとPTの両方である場合[例.PT「誤った製品の適用(Wrong product administered)」]もある。
● 過誤の可能性(potential for error)を表す用語[例.LLT「誤薬の投薬過誤の可能性(Potential for medication error, wrong drug)」]
● 患者に届かず回避された過誤(Intercepted error)[例.LLT「回避された誤った剤形の選択(Intercepted wrong dosage form selected)」]
● 報告されたインシデントが過誤で起きたかどうか不確かな状況に関する用語[例.LLT「製品処方の問題(Product prescribing issue)」]
それぞれのPTは、偶発的曝露、薬物使用プロセス*の各段階、製品混同を表すHLT、もしくは他に分類されない様々な他のPTを集めたHLTで分類される。
3.1 投薬過誤の用語選択 ― 質問と回答
本項では、投薬過誤の用語選択についてよくある質問(FAQ)について回答する。
3.1.1 LLT「投薬過誤 (Medication error)」の使用
LLT「投薬過誤 (Medication error)」は、どのような場合に使用が認められるか?
その過誤に対して適切なMedDRA用語がない場合、投薬過誤を使うことはできるか?
● LLT「投薬過誤 (Medication error)」は、特定のタイプまたは段階の過誤についてそれ以外の情報がない場合を除いては、使用を避けるべきである。
● HLGT「投薬過誤、その他の製品使用過誤および問題 (Medication errors and other product use errors and issues)」の下位にある全てのLLTを確認し、最も具体的と考えられる用語を選択する。
● 具体的な過誤が報告されたにも関わらず、使用できる適切なLLTがない場合には、用語の追加変更要請の手順を守るべきである(MedDRAウェブサイト Change Requests* 参照)。その間は、使用できる用語中から報告された過誤に最も近い用語を選択すべきである。LLT「投薬過誤 (Medication error)」が最も近い意味として選択される事例は稀と考えられる。
* JMO注):JMOユーザーは、JMO Website(https://www.jmo.pmrj.jp/)の追加変更要請ページから要請ください。
同じインシデントに対して報告された全ての過誤を用語選択すべきか?
原因となった過誤(最初に発生した過誤としても認識されているもの)が、その結果として続発する過誤を引き起こす場合がある。例えば、「誤った薬剤(wrong drug)による処方過誤(prescribing error)に、結果として誤った薬剤の調剤や誤薬投与が続発した」と報告されている。
● 報告書に記載されている場合には、「原因」となった過誤だけでなく、追加または「結果としての」過誤およびその要因と同様、それらをコーディング(用語選択)すべきである。上記の例では、LLT「誤った薬剤の処方(Wrong drug prescribed)」およびLLT「誤った薬剤の調剤(Wrong drug dispensed)」を用語選択し、LLT「誤薬投与(Wrong drug administered)」を続発する過誤に対する用語として選択する。
● 情報が追加されない場合、同じ過誤に対する重複したコーディング(用語選択)は避けること。つまり、一つの過誤が一般的な用語と具体的な用語で報告されていた場合、複数のLLTを使用せずに具体的な過誤のみを用語選択すべきである。例えば、もし誤った薬が投与されたという投与過誤があったことが報告された場合、具体的な過誤を表すLLT「誤薬投与(Wrong drug administered)」のみを選択すべきである。一般的な記述であるLLT「薬剤誤投与(Drug administration error)」は、ここでは意味のある追加情報を提供しない(これら二つのLLT が異なったPTにリンクしているにしても)ため、選択しないこと(複数の用語選択が必要な場合の例示については、3.1.5 項の例示を参照されたい)。
● 組織によっては、LLTレベルで集計する方式のデータベースを有しており、その場合、同じPT下に配置された二つのLLTが用いられた場合には、シグナル検出に影響を及ぼすかもしれないことを念頭に置くべきである。
「処方者が、ラベル表示よりもはるかに高い用量を指示した。」との報告があり、その処方が過誤によるものか適応外使用であるかの言及がない場合、鑑別診断のように、両方の可能性について用語選択すべきか?
● どちらとも言及されておらず、しかし両方とも可能である場合、一つの事象に対して過誤を表す用語と適応外使用を表す用語でダブルコーディングしてはならない(この手法は有益ではない)。
● シナリオが不明瞭である場合、その明確化に務めるべきである。それでも不明な場合は報告にないものを推察せず、報告内容に最も当てはまる用語を選択すべきである。例えば、「薬剤Xがラベル表示よりもはるかに高い用量で処方された」という報告のみで、それが過誤か適応外使用であるかの情報がない場合、LLT「処方に基づく過量投与 (Prescribed overdose)」[HLT「過量投与NEC (Overdoses NEC)」]」を選択する。
● 適応外使用の用語は、報告された情報の中に適応外使用であることが明記されている場合のみ用語選択すべきである。
過誤の潜在的な可能性を記載した報告について、その用語選択はどのように行えばよいか?
例)「二つの医薬品のラベル表示が似ているため、誰かが取り違える可能性がある。」と記載された報告:
● 発生するかもしれない過誤の可能性、要因および潜在的な過誤のタイプに関する情報を表現できる用語を選択する。
過誤の可能性は、PT「投薬過誤につながる状況または情報 (Circumstance or information capable of leading to medication error)」」の下位にある最も近いLLTを選択することによって示すべきである。
● もし情報を一語一語正確に入手できるのであれば、過誤の可能性があるということだけでなく、懸念される具体的な過誤の可能性についての情報を収集することが重要である。過誤のタイプについてより詳細な情報が報告されない場合は、過誤のタイプでなく過誤の可能性があることだけを収集した用語は、独立した用語として使われるべきである。
いくつかのLLTは、一つの用語の中に過誤の可能性とタイプを合わせ持っているが、そのような用語が報告されたシナリオに適用できない場合には、それぞれ分けて用語を選択されたい。上記の例では、次の用語を選択する。
○ 過誤のタイプも含む過誤の可能性を表す用語(LLT「誤薬の投薬過誤の可能性(Potential for medication error, wrong drug)」)
○ 要因を表す用語(LLT「似た薬剤表示(Drug label look-alike)」)
3.1.5 回避された投薬過誤
回避された投薬過誤を述べる報告に対し、どのような用語を選択すべきか?
例)「類似の包装であったため誤った薬剤含量が病棟に調剤された。しかし看護師がその誤りにすぐ気付き薬剤師に通報した」という報告。 用語選択とMedDRAでコーディングされたデータの解析の目的では、回避された投薬過誤とは投薬過誤が発生したが、患者や消費者にそれが到達することが妨げられたという状態を意味する。「回避された過誤」用語は、回避された状況よりも、過誤が発生した状況を反映すべきである。
● 報告されているのであれば、回避された過誤、発生した過誤のタイプ、さらに要因についての情報を表現するLLTsを選択されたい。いくつかのLLTsは回避された過誤と過誤のタイプの両方の情報を包含している(例. LLT「回避された誤った薬剤含量の選択(Intercepted wrong drug strength selected)」、LLT「回避された誤った投与経路の選択(Intercepted wrong route of administration selected)」)。もし、報告されたシナリオについて、そのような具体的なLLTが使えない場合、それぞれについて別々の用語を選択する。
● 上記の例を捕捉するため、以下の用語を選択する。
○ 回避された過誤(LLT「回避された調剤過誤(Intercepted drug dispensing error)」)
○ 発生した過誤のタイプ(PT「製品交付過誤(Product dispensing error)」下位の LLT「誤った薬剤含量の調剤(Wrong drug strength dispensed)」
○ 要因(LLT「外観の似た包装(Look alike packaging)」)
3.1.6 最も具体的な用語の選択
他の用語と重複する概念を持つ用語は、どのように使用すればよいか?
例)「患者が自己投与前に製品を十分な時間をかけて再調製しなかった」と記載された報告:
● 報告された情報に対して、適用できる最も具体的なLLTを選択すべきである。上記の例では、LLT「不適切な再調製技法(Inappropriate reconstitution technique)[PT「製品調製過誤 (Product preparation error)」]」を選択する。その理由は、この用語がLLT「製品使用過程における誤った技法 (Wrong technique in product usage process)」[PT「製品使用過程における誤った技法 (Wrong technique in product usage process)」]」よりも具体的であるためである。一つの過誤を二つの過誤の用語で用語選択することは、それが意味のある追加情報を提供する(すなわち、一つのLLTでは報告されたシナリオの全体像を表現できない)場合に限って有用である。
投薬過誤に関するMedDRA用語概念の記述には、乱用、誤用、あるいは適応外使用が含まれているのか?
投薬過誤については様々な定義がある。用語選択とMedDRAでコーディングされたデータの解析の目的では、「投薬過誤」とは、薬剤が医療専門家、患者自身、あるいは消費者の管理の下にある場合で、患者にとって有害なこと、または不適切な薬剤使用を引き起こす可能性がある全ての偶発的で回避可能な事象を指す。それらは、処方、情報伝達(order communication)、製品の表示(product labelling)、包装および用語、配合、調剤、流通、管理、教育、追跡調査(monitoring)および使用などを含む、専門家による行為、製品そのもの、および全体としてのシステムに関係する可能性がある。
* JMO注):MedDRA®手引書の付表B 用語概念の記述(例.投薬過誤、投薬モニタリング過誤、処方過誤、製品剤形の混同、製品表示の混同、製品名称の混同、製品包装の混同)も参照されたい。また、MTS: PTC 3.16 「誤用、乱用および嗜癖」、3.27「適応外使用」も参照すること。
一般的な原則として企図的な使用、つまり乱用、企図的誤用、企図的過量投与、適応外使用、副作用(ADRs)による薬剤使用の変更のための臨床的決定は投薬過誤ではない。しかし、そのシナリオが過誤か否かは、背景や原因に依存する可能性がある。以下に例を示す。
○ もし製品の混同(confusion)が、製品の誤った使用や誤用(misuse)の原因または結果である場合(例.医療機器が紛らわしく、十分量を確実に投薬するために追加投与した)、通常、これは過誤とみなされ、企図的な誤用(intentional misuse)とは考えない。
○ 医薬品副作用の発現が、患者が治療を中止する原因である場合、企図的な誤用や過誤とは考えない。
○ 患者が自己判断で処方または推奨(服薬量、服薬計画、服薬期間等の変更)と異なる服薬とした場合、このシナリオは企図的な誤用、提供情報への依存とみなされ、投薬過誤ではない。
薬物乱用(drug abuse)や、薬物がどのように乱用されたか(投与経路、調製)の詳細が述べられている場合は、投薬過誤とはみなさない。
本人が関与できない製品品質や製品供給の問題などの状況も、通常は投薬過誤には分類されないが、結果として投薬過誤に繋がることもある。例えば、医療機器機能不良(device malfunction)または包装の欠陥(製品品質に関する問題)が、結果として誤用量投与(incorrect dose administered)に繋がることがある。
薬物使用プロセスの段階が示されていない投薬過誤の用語は、どのような場合に使うのが適切か?
MedDRA 用語には、過誤のタイプと薬物使用プロセスの段階の両方を示すものや(例.LLT「誤った薬剤の処方(Wrong drug prescribed)」)、過誤のタイプのみ(例.LLT「誤った薬剤(Wrong drug)」)や薬物使用プロセスの段階のみ(例.LLT「処方過誤(Drug prescribing error)」)を示すものがある。薬物使用プロセスの段階を示すPTsは、必ずしも全てではないが、その段階の過誤のタイプを示す具体的なLLTsを包含する(例.PT「製品処方過誤(Product prescribing error)」は次のようなLLTsを含んでいる。つまり、誤った処方(LLT「誤った薬剤の処方(Wrong drug prescribed)」、誤った用量(LLT「用量処方過誤(Drug dose prescribing error)」)、誤った計画(LLT「投与計画処方過誤(Drug schedule prescribing error)」は含まれるが、誤った含量(wrong strength)は含まない。
● 一つのLLTを選択
例)「薬局が誤った薬剤を調剤した。」と記載された報告: 薬物使用システムの段階と過誤のタイプの双方をハイライトすることは、そのことが知られていれば重要である。上記の例では、二つのLLT(LLT「誤った薬剤(Wrong drug)」およびLLT「調剤過誤(Drug dispensing error」)の併用でなく、一つのLLT「誤った薬剤の調剤(Wrong drug dispensed)」を使用することが可能である。
● 複数のLLTを選択
例)「誤って間違った含量を処方」と記載された報告:
報告された情報を完全に表現できる単一の用語がないことから、二つのLLT(「誤った含量(Wrong strength)」および「処方過誤(Drug prescribing error)」)を用語選択すべきである。
薬物使用プロセスの段階が不明な場合には、過誤のタイプのみを示す用語(例.LLT「誤った薬剤(Wrong drug)」、LLT「誤った計画(Wrong schedule)」、LLT「誤った含量(Wrong strength)」など)がある。
要因は何でしょうか? 当該症例報告に要因の記述があった場合、それをコーディングすることを推奨しますか?
要因(contributing factor)についてのMedDRA用語概念は、WHO(World Health Organization)1 に合わせて以下の通りである。
要因とは、投薬過誤の由来や進展の一部を演ずる、または投薬過誤のリスクを高めると考えられる環境、活動あるいは影響のことである。
MedDRAは製品に関係する要因を収集するための用語を含む(例えば、製品表示の混同、過誤につながる略語の使用、過誤に導く製品品質に関する問題)。
しかし、騒音レベル、疲労や従業員数のような組織システムの問題も投薬過誤に影響するかもしれない。これらの過誤には具体的なMedDRA用語は無いが、自由記載(例えば記述情報欄)の中で記録されるべきである。これら組織システムの問題については、包括的な用語(LLT「組織システムの問題の要因(Organisational systems issue contributing factor)」)が用語選択に利用できる。
要因が提供される場合は、その要因と過誤を示す用語を選択する。
● 例えば、製品品質の問題は投薬過誤を引き起こすかもしれない。その場合、製品品質の問題が過誤の要因である。その品質の問題と過誤の両方を用語選択すべきである。
● 例えば、患者が製品の使用説明書を受け取っていないというような、コミュニケーションの問題が投薬過誤を引き起こすかもしれない。その場合、コミュニケーションの問題が過誤の要因である。そのコミュニケーションの問題(例.LLT「患者への製品情報の不提供(Product information not provided to patient)」)と過誤の両方を用語選択すべきである。
* 注1):Conceptual Framework for the International Classification from Patient Safety. WHO, 2009 The International Classification for Patient Safety,3 under development by the World Health Organization. Available at: https://apps.who.int/iris/bitstream/handle/10665/70882/WHO_IER_PSP_2010.2_eng.pdf
症例報告に明確に記述されていない情報に対して、具体的な投薬過誤の用語を選択することは認められるか?
選択されたLLTは症例報告に記載された情報だけを反映すべきで、それ自体が明確に報告されていない時には、投薬過誤が発生したことを想定すべきではない。
例えば、「看護師が薬剤Xを50 mg投与した。」とのみ記載された報告は有益な情報とは言えず、そのように報告するべきではない。詳細情報を求めるかあるいは処方情報を参照して、用量が適切であるかを記述情報欄に記述すべきである。
理想的にはデータ入手の時点で、投薬過誤として報告する理由が、記述情報欄に含まれるようにすべきである(例.「患者に処方用量より多い50mgが偶発的に投与された。」)。あるいは、報告者は明確にすることができないが処方情報より少ない用量が推奨されている場合には、記述情報欄において処方情報を参照して報告するべきである(例.「処方情報では薬剤Xの推奨用量は5mgであるが、看護師が50 mg 投与した」)。
薬物送達機器(drug delivery device)と併用することを意図した多くの市場製品が増加しており、単一の薬物機器製品(drug-device product)やキットに同包装された製品、あるいは別々に販売されているがある特定の機器と併用するようラベル表示されている製品もある。数多くのタイプの薬物送達機器があり、それらはオートインジェクター(自動注入器)、ペン型注入器(pen)、自己注射器(patient-controlled injector)、プレフィルドシリンジ、オンボディ/ウェアラブルインジェクター、経皮・局所デリバリーシステム、定量吸入器などが含まれる。 ある薬物送達機器は、製品設計、使用説明書、梱包そして安全性の特徴がユニークで複雑であり、それらのいずれもが混乱の原因となり投薬過誤を引き起こす可能性がある。さらに、しばしば同じ薬剤が異なる製品として市販され、そのそれぞれが異なる送達機器を付けている(例.薬剤Aがペン型機器、プレフィルドシリンジそしてオートインジェクターで提供)。
薬物送達機器を含む投薬過誤の報告を処理する時、過誤を起こす要因に関連した具体的な医療機器を記録することは重要である。そのような因子には次のような問題がある。
● 表示(例.梱包、医療機器名または医療機器の使用説明書を間違える)
● 機器自体(例.医療機器の不良、設計の不良、起動の不成功)
● 機器が使われた方法(例.向きを逆にした注射器、キャップの外れない注射針)
報告には、そのインシデントが医療機器の問題/不良なのか、または医療機器使用の過誤なのか十分な情報がないことがある。症例のコーディングと検索を行う上で、これらの区別は非常に重要なので明確にすべきである。報告された情報(verbatim information)をコーディングするよう努め、推測は避けること。 薬物送達機器に関連する安全性報告は、投薬過誤(例. 誤った製品の処方または調剤や誤った医療機器の使い方)、送達機器の使用に伴う合併症(例. 針刺し損傷)、製品設計あるいはその他の製品品質に関する問題、不良または有害事象を反映しているかもしれない。 投薬過誤の用語は、薬物送達機器の付いた製品に特有のもの、あるいはすべての製品で適用できる場合もある。同じ有害事象または過誤が、先立って生じた異なるイベントの結果として起こり、さらに新しい過誤につながることがある。例えば、「ペン(ペン型注入器)が詰まった」のシナリオは医療機器を誤って使用した結果(投薬過誤のカテゴリー)、または医療機器の不良の結果(医療機器の問題のカテゴリー)に起因する可能性がある。なぜ「ペンが詰まった」のかに関係なく、投薬欠落(missed dose: 投薬過誤のカテゴリー)や投薬遅延(delayed dose)が報告される場合もあれば、そうでない場合もある。
テーブルは以下のように配列されている:
● 第1列には報告されたシナリオを記載 ● 第2列にはこのシナリオで報告された情報がMTS: PTC文書でいう投薬過誤とみなせるか否か(Yes/No)、あるいは提供された情報からは判定できない(Unknown)旨を表示(Yes:投薬過誤、No: 投薬過誤ではない、Unk.: 判定不能) ● 第3列では選択されたLLTを提供 ● 第4列には補足コメントと用語選択に関する説明を記載
| シナリオ | 投薬 過誤 か? |
LLT | コメント |
| ペン(ペン型注入器)の詰まり | Unk | 医療機器の機械的詰まり | |
| 患者はペンを正しく使用したが、ペンが詰まった | No | 医療機器の機械的詰まり | 報告情報は患者がペンを正しく使っていることを明らかにしており、投薬過誤は除外する。 結果としての投薬過誤の可能性は、報告されない場合には推測すべきではない |
| ペンが詰まり、患者は投薬が欠落した。 | Yes | 医療機器による投与の欠落 医療機器の機械的詰まり | 医療機器を正しく使ったかどうかは不明で、単純に医療機器の問題が投薬過誤の結果につながった。 |
| 患者は新しいペンを前のペンと同様に使えると考えていた。彼は新しいペンを正しく使わずに、ペンが詰まった。 | Yes | 医療機器使用法過誤 医療機器の機械的詰まり | 医療機器使用法過誤は間違った使用法で、この過誤が医療機器の機能の問題という結果につながった。 |
| 患者は製品使用説明書に従っていたが、不明瞭であったことからステップを誤解していた。その結果、ペンが詰まった。 | Yes | 製品リーフレットの説明の混同 医療機器使用法過誤 医療機器の機械的詰まり | 不明瞭な使用説明が使用過誤と医療機器の機能の問題という結果につながった。 |
| 新しいデザインのため、ペンは作動が難しかった。患者は可能な限り強くプランジャーボタンを押したが、不完全な量が送達されただけであった。 | Yes | 製品デザインの問題 送達機器コンポーネント使用困難 医療機器による送達用量不足 | 製品デザインの問題が投薬過誤という結果につながった。 |
MedDRAは医療機器に関連する概念をどの様にグループ化しているのか?
医療機器に関連する事象には多様なタイプがあり、それらはMedDRAの異なるセクションにグループ化されている。複数のHLT/HLGTの中から用語を検索する必要がある。
● 医療機器の過誤と医療機器使用の問題は、一般的にHLGT「投薬過誤、その他の製品使用過誤および問題(Medication errors and other product use errors and issues)」にグループ化される。
● 医療機器の問題は、一般的にHLGT「医療機器に関する問題(Device issues)」に包含される。
● 医療機器に関連した合併症は、一般的にHLGT「医療機器に関連した合併症(Complications associated with device)」にグループ化される。
● 製品品質に関する問題: 製品品質に関する問題の既存の用語は、医療機器の付随した製品で使用可能であり、一般的にHLGT「製品品質、供給、流通、製造および品質システムの問題(Product quality, supply, distribution, manufacturing and quality system issues)」にグループ化される。
この項では、種々に分類された投薬過誤を用語選択するにあたり、その例示を提供している。
テーブルは以下のように配列されている:
● 第1列には報告されたシナリオを記載
● 第2列にはこのシナリオがMTS:PTC文書でいうところの投薬過誤とみなせるか否か(Yes/No)、あるいは提供された情報からは判定できない(Unknown)旨を表示(凡例、Yes: 投薬過誤、No: 投薬過誤ではない、Unk.: 判定不能)
● 第3列では選択されたLLTおよび必要に応じてPTもしくはHLTを提供
● 第4列には補足コメントと用語選択に関する説明を記載
LLTは、複数のカテゴリーに分類されることもあり、その概念の表示が複数の表で重複するかもしれない。
| シナリオ | 投薬 過誤 か? |
LLT | コメント |
| 処方されたオピオイド及びヘロインを過量に服用し、自殺を試みた。 | No | 企図的多剤過量投与 自殺未遂 | 過量投与を企図しているため、投薬過誤ではない。 |
| 気分を高揚させるためにストリートヘロインを服用し、ヘロインの過量服用で死亡した。 | No | 過量投与 アヘン類乱用 | 過量投与が企図的かは不明である。このシナリオは投薬過誤ではなく薬物乱用の背景があることから、偶発的過量投与の用語選択をしてはならない。死亡は転帰かつ重篤性の基準として示される。 |
| 父親がオートインジェクターで子供に薬の投与を行う際に、うっかり自分の親指に注射してしまった。 | Yes | 投与中の薬剤による偶発的曝露 | 親は投与対象である患者ではなく、偶発的に薬剤に曝露された。選択されたLLTは、報告された具体的な情報(例.薬剤投与中に生じた偶発的な曝露)を示す。 |
| 視力障害のある患者が、ボトルの中の錠剤と同じ色及び同じ大きさの乾燥剤チューブを誤って飲み込み、窒息した。 | Yes | 偶発的製品乾燥剤誤飲 製品外観の混同 息詰まり | 偶発的誤飲は過誤である。製品乾燥剤は製品梱包の一部と考えられるが、LLT「製品外観の混同」は偶発的誤飲に対する報告された要因を示すために、利用できる最も近い用語である。LLT「視力障害」は病歴として示される。 |
| 2歳の小児が、台所の調理台に偶然置き忘れていた抗生剤を服用した。 | Yes | 子供の偶発的薬剤摂取 | |
| 若者が気分を高揚させるために、15分未満で鼻から200回分を吸入し、過量服用で死亡した。 | No | 薬物乱用 過量投与 | 乱用による過量投与は投薬過誤ではなく、治療的な使用を示唆する企図的誤用でもない(これはMTS:PTC 3.16の表を参考にすること)。死亡は転帰かつ重篤性の基準として示される。 |
| 成人が2錠(100mg(力価)/錠)服用した。 | Unk | これは有益な報告ではなく、さらに情報を収集すべきである。この事例に用語選択をするものはない。 | |
| 成人が背部痛のため、推奨用量である1錠(100mg力価)ではなく、企図的に2錠服用した。 | No | 服薬量変更による 企図的誤用 | 企図的誤用の例であり、投薬過誤ではない |
| シナリオ | 投薬 過誤 か? |
LLT | コメント |
| 薬剤師は、製品表示がわかりにくいため、患者が誤った剤形を受け取ってしまう可能性があると報告した。 | Yes | 投薬過誤につながる
状況または情報 製品表示の混同 誤った剤形 | 報告には誤った製品が実際に調剤された、または投与されたとの記述がないことから、これは投薬過誤の潜在的可能性についての例である。LLT「投薬過誤につながる状況または情報」は、その過誤が潜在的な可能性であることを示している。報告された潜在的な投薬過誤のタイプを表わす最も具体的な用語と、その要因である製品表示の混同について用語選択されるべきである。 |
| 患者はシリンジを用いて、自分のペン型注入器からインスリンを抜き出してしまった。これは患者がペン型注入器の用量を選択するために表示されていた数字に混乱し、ペン型注入器で過量のインスリンを誤って投与したくないと思ったためであった。 | Yes | シリンジでの不適切な薬剤抽出 医療機器のマークの混同 | 初めの混同は、ペン型注入器の目盛り表記である。製品デザインの混同が、投与過誤を引き起こすかもしれない使用の混同の原因である可能性がある。例示のシナリオでは、患者は投与過誤を避けるため企図的にシリンジを使って薬剤を抜き出していた。
この混同とその結果生じた製品使用の誤ったテクニックは、共に投薬過誤に含まれる。そのため、企図的医療機器誤用の用語を追加する必要はない。 投薬欠落や誤用量投与を推測してはいけない。報告にそのことは記されていない。 |
| 患者は自身のインスリンのペン型注入器のカートリッジをバイアルとして使用し、低血糖が発現した。患者は、シリンジにインスリンが残っており、無駄にしたくなかったためにそのようにしたのだと報告した。 | No | 企図的医療機器誤用 低血糖 | 企図的誤用の例である。治療目的で使用されているが、投薬過誤については言及していない。 |
| 薬剤師は薬剤とは適合しない誤ったアダプターを選択した。投与する薬剤をバイアルからバッグへ移すためにアダプターを使用した際、アダプターが溶け始めた。 | Yes | 使用医療機器の誤り 薬物と医療機器間の不適合 | 誤った医療機器の使用および医療機器と薬剤との不適合という二つを示す。 |
| 患者が使い方を誤解し、ペン型インジェクターを皮膚上で使用した際、投与に推奨される10秒間を保持しなかった。 | Yes | 製品投与完了前の送達機器の除去 医療機器使用法混同 | このシナリオにおけるコーディングの選択肢を考えると、LLT「医療機器使用法過誤」およびLLT「医療機器使用過程における誤った技法」の両用語はより一般的な用語であることから、PT「製品適用中断」にリンクするLLT「製品投与完了前の送達機器の除去」が選択される。 |
| 患者はホルモン含有子宮内避妊具(IUD: intra-uterine device)の交換をずっと忘れており、5年とされる推奨時期を過ぎた。最初にその医療器具を挿入してから7年目に、患者は妊娠した。 | Yes | ラベル表示の使用期間を超過した偶発的医療機器使用 IUD使用中の妊娠 | LLT「ラベル表示の使用期間を超過した偶発的医療機器使用」(PT「医療機器使用法過誤」)は、意図された使用の推奨に従って医療機器を適切に使用する際の広義の過誤を表す。 |
| 薬局の申し込み用ソフトウェアに用量計算の仕組みが内蔵されていたが、それは薬局によって誤ってプログラムされていた。そのため、子供が誤った用量で服薬してしまった。 | Yes | 医療機器プログラミング過誤 医療機器関連の用量算出過誤 薬剤投与量過誤 | |
| 入院中、患者に詳細不明の投薬過誤があったが、有害事象は認められなかった。 | Yes | 投薬過誤 | これは有益な情報ではないが、LLT「投薬過誤」で示される例である。MTS:PTC* に従うと、臨床的影響はないが具体的に投薬過誤が明示された場合、好ましい選択肢は投薬過誤の用語のみである。他の選択肢として、投薬過誤の用語に加えてLLT「副作用なし」を選択することも可能である(MTS:PTC 3.21参照)。
*JMO注): MTS: PTC 3.15.1.2 「臨床的影響を伴わない投薬過誤および潜在的投薬過誤」も参照すること。 |
| 看護師は欠陥のあるモバイル医療機器(アプリケーション)を使用し、インスリン必要量を間違って算出したため、誤った用量を患者に投与した。 | Yes | モバイル医療アプリケーションの問題 医療機器関連の用量算出過誤 薬剤投与量過誤 | モバイル医療アプリケーションの問題が、用量算出過誤とそれに引き続く投与量過誤の原因である。 |
| 患者は錠剤を分割した(製品表示には、錠剤の分割をしないように注意喚起する指示はない)。 | No | この報告は過誤について言及しておらず、むしろ、製品表示は錠剤の分割をしないよう指示してはいないことを理由に、本報告が投薬過誤のシナリオではないことを示している。提供された文中には、用語選択すべきものはない。 | |
| ヘルスケアプロバイダーは、製品表示に錠剤をそのまま飲み込むことが記載されていることに気付かずに1日1回半錠を処方した。患者は錠剤を分割した。 | Yes | 製品処方過誤 誤って分割した錠剤 | これは処方過誤であり、その結果患者は錠剤を分割してしまった。処方者が錠剤を分割すべきでないことに気付かなかったことに起因することから、これは適応外使用ではない。 |
| 処方者は患者に錠剤を分割することを勧めた。製品表示は錠剤をそのまま飲み込むことを記載している。 | Unk | 製品処方の問題 | LLT「製品処方の問題」を選択する。これは意図的か否か(適応外使用か投薬過誤)が不明であるからである。報告には、錠剤をそのまま飲み込むべきであることを処方者が認識していたか否かが示されていない。 |
| 患者は薬剤Aにすべきだが、代わりに薬剤Bを入手していた。どこで過誤が発生したかは明確ではない。 | Yes | 誤った薬剤 | これは「誤った薬剤」の投薬過誤である。その過誤がどこで起きたのかについては述べられていない(例.処方時、調剤時、選択時あるいは投与時)。 |
| 医師は代替品のないブランド製品を明記して処方したが、誤ってブランド製品がジェネリック医薬品で代用された。 | Yes | 製品代替過誤 | これは代替過誤がHLT「投薬過誤、製品使用過誤および問題NEC」にリンクするPT「製品代替過誤」下位の“過誤” の用語でコードされたシナリオである。 HLT「治療手技NEC」にリンクするPT/LLT「製品代替」に包含する用語は、過誤でも問題でもなく、単に製品代替のことを意味する。 |
| 患者は製品表示に推奨された廃棄方法ではなく、口の開いたゴミ箱に医療用オピオイド貼付剤を捨てた。患者の子供が貼付剤で遊び、過量のオピオイドに曝露された。 | Yes | 薬剤の誤った廃棄 子供の偶発的製品曝露 偶発的過量投与 | 曝露の経路は報告された情報では具体的に示されておらず、そのため用語選択できない。 |
MedDRAの用語概念によると、投薬欠落は患者に指示された投与量が次の投与(もしあれば、)までに投与されなかった事象のことを指す*。
*JMO注):「投薬欠落」が記述されたシナリオに関連する MTS:PTC 3.15.1.2「臨床的影響を伴わない投薬過誤および潜在的投薬過誤」も参照すること。 状況が投薬欠落のタイプを明らかにする。投薬欠落の起きたシナリオは一般的に次のようにグループ化される。
● 意図しない投薬欠落(この事例は過誤で、患者が説明を誤解した、ペン型医療機器(pen device)が詰まって患者が投与量を服薬できなかった、患者が服薬を忘れた、という理由で投薬が欠落した。)
● 意図的な投薬欠落(この事例は臨床的な理由で、患者が低血糖のため抗糖尿病薬の一回分をスキップする、外科手術前に薬剤を一日保留した、という理由で投薬が欠落した。)
● 詳細不明の投薬欠落(これは理由や要因が不明で、投薬は服薬されなかったという事例がある。)
● 治療の中断(これは過誤でもなく意図的でもなく、外部因子、例えば供給、保険、経済的問題が該当する。)
投薬欠落の原因や要因は、その欠落が投薬過誤か否か確定する際に必要であり、その後の適切なMedDRA用語の選択のためにも必要である。異なるシナリオを正確に示すために種々のMedDRA用語が収載されている。
| シナリオ | 投薬 過誤 か? |
LLT | コメント |
| ヘルスケアプロバイダーは二つのシリンジの結合箇所で液漏れが生じたことによる問題について報告した。これが投薬の欠落を招いた。 | Yes | 医療機器による投与の欠落 シリンジ接続の問題 医療機器接続部リーク | これは投薬過誤につながる、医療機器に関連した要因の事例である。 |
| 看護師がバイアルに含まれる有効成分を希釈液で調製して使用するのではなく、その希釈液を誤って患者に投与してしまったため、患者は所定量の薬が投与されなかった。 | Yes | 過誤による投薬欠落 希釈剤への有効成分の添加なし 2つのコンポーネントからなる製品の1つのコンポーネントのみの使用 | このシナリオでは、投薬欠落は過誤であり、希釈液でのバイアルの再調製を失敗している。報告が投薬欠落の過誤を示している時は、具体的な用語であるLLT「過誤による投薬欠落」が選択されるべきである。 原因となった過誤は製品調製の過誤である。 |
| 投薬の欠落 | Unk | 投薬欠落 ( PT「製品投与の欠落の問題」) | |
| 薬局に薬の在庫がなかったため、患者は1週間治療が受けられなかった。 | No | 治療の一時中断 製品供給力の問題 | この事象は企図的ではなく投薬過誤でもない。LLT「治療の一時中断」を使用し、そして治療の一次中断を引き起こした外的要因を示す。 |
| 包装中の服薬単位の一つが空であることに気付かなかったため、患者は服用を欠落した。 | Yes | 過誤による投薬欠落 包装内容の欠如 (PT「製品包装量の問題」) | この投薬が欠落するという事象は偶発的であり、製品包装量の問題に起因する。 |
| 患者は経済的な余裕がなかったことから、先週は薬剤を服用しなかった。 | No | 治療の一時中断 薬剤の費用負担不能 | 誤った投薬欠落および企図的投薬欠落ではない。LLT「治療の一時中断」を使用し、そして治療の一次中断を引き起こした外的要因を示す。 |
| 患者は医療処置が予定されていたため、午後の服用を保留した。 | No | 企図的投薬欠落 | これは企図的な投薬欠落の例である。 |
| 患者は血糖値が低かったため、夕方分として処方されたインスリンの投与をスキップした。 | No | 企図的投薬欠落 | これは患者による、臨床的な理由での企図的な投薬欠落の例である。 |
| 患者は処方通りに薬剤を服用後、赤色のそう痒性皮疹が突発したため、残りの薬剤を服用しなかった。 | No | そう痒性皮疹 | 有害事象による治療の中止や調整は、過誤または企図的誤用とはみなさない。 治療の中止や調整は、通例データベースや症例報告のどこか他のところで記録され、この場合は有害事象/副作用だけが用語選択される。 |
| 患者は処方された抗精神薬を常習的にスキップしていた。 | No | 治療非遵守 | |
| 体表注入器が患者の腕から剥がれ落ち、服薬が欠落した。 | Yes | 過誤による投薬欠落 薬物送達機器の皮膚からの落剥 | 過誤による投薬欠落とそれが送達機器の落剝によるものであることの両方を示している。このケースでは、粘着の問題かどうかは述べられていない。 |
| 患者はその週の1日について服薬を忘れた。 | Yes | 患者による製品の適用忘れ |
3.2.3.2 その他の使用過誤および問題
| シナリオ | 投薬 過誤 か? |
LLT | コメント |
| 患者は、厚いブリスター包装から錠剤を取り出すことが難しかった。無理に取り出そうとしたが錠剤は多くの破片に砕けて床に落ちてしまった。患者はいくつかの破片を見つけて服用できただけであった | Yes | 製品ブリスター包装の問題 誤用量投与 | 用語選択すべきブリスター包装の問題がある。このシナリオでの「砕けた錠剤」は製品品質の問題かもしれないし、あるいはそうでないかもしれず、用語選択は具体的な状況に従って考慮されることでよい。 |
| シリンジのプランジャーが完全に押し下げられなかったため、患者は所定量の半分しか投与されなかった。 | Yes | 医療機器による送達用量不足 シリンジの問題 | 医療機器の問題と、それに続発した投薬過誤の両方について記録する。プランジャーが押し下げられなかった複数の理由(例.不良、製品設計)があり、LLT「シリンジの問題」は適切な用語である。 |
| 患者は指示された使用方法に従ったが、その医療機器が詰まり、注射液のほとんどを手に飛び散らしてしまったと報告した。 | Yes | 投与中の薬剤による偶発的曝露 医療機器の機械的詰まり 皮膚接触を介した曝露 | この事例は患者が使用方法に従っていることが示されていることから、使用過誤は除外されることが分かる。 LLT「医療機器の機械的詰まり」は事象を記録するために適切な用語である。 記述記載の中で報告されていないことから、投薬欠落を推測してはいけない。 報告された投薬過誤は、製品への偶発的曝露である。 |
| 自分の病気には禁忌の薬剤であることを知らずに服用している患者 | Yes | 禁忌薬剤投与 ラベル表示された薬物-疾患相互作用による投薬過誤 | 患者が禁忌の薬剤を服用していることについて述べられている。これが投薬過誤であることを明らかにする状況が提供されている。 |
| 薬剤は推奨されている上腕筋ではなく、腹部に投与された。 | Unk | 不適切な部位への薬剤投与 | |
| 患者は偶発的に薬剤を過量に服用してしまったため、過量投与で生ずる可能性のある症状についてヘルスケアプロバイダーに尋ねた。 | Yes | 偶発的服薬増量 | 患者は過量投与の症状のみを尋ねている(過量投与の報告ではなく)。 LLT「規定量以上の投与」は、規定量以上について利用可能なより詳細な問題の用語ではあるが、ここでは事象の偶発的な性質を含むことが重要である。 |
| 患者は期限切れの頭痛薬を服薬したと報告した。 | Unk | 期限切れの薬剤使用 | |
| 看護師が注入ポンプの薬剤送達時間を50分に設定するつもりだったが、誤って5分とプログラミングした。その後、患者は呼吸停止した | Yes | 速すぎる投与速度 ポンプのプログラミングの誤り 呼吸停止 | |
| 患者は亀裂の入ったインスリンカートリッジを使用した。その結果投与量が不十分であった。 | Yes | 医療機器による送達 用量不足 カートリッジ亀裂 |
| シナリオ | 投薬過 誤か? |
LLT | コメント |
| 患者は薬剤Xではなく薬剤Yを調剤された。この二つの薬剤は似た外観包装をしていた。 | Yes | 外観の似た包装 誤った薬剤の調剤 | |
| 表示の混同のため、患者は予定していた5mgの薬剤Aではなく10mgの一般用医薬品の薬剤Aを購入した。 | Yes | 製品表示の混同 誤った薬剤含量の選択 | |
| 毎日服用しているビタミン剤と錠剤が全く同一の外観であったため、患者は思わず誤った薬剤を1週間服用した。 | Yes | 誤薬投与 外観の似た錠剤 | |
| 5mg/mlの製品と50mg/mlの製品との取り違え | Yes | 製品含量の混同 | 患者が薬剤を投与されたかどうかは明確ではない。 “含量” は製品そのものに関連し、“用量” は患者が受け取る、もしくは受け取るべき薬剤量のことである。 |
| 医師が電話で薬剤を指示した際に、薬剤師は、薬剤名を ”Drillo” と聞き違えたため、患者は ”Millo” ではなく、 ”Drillo” を調剤された。 | Yes | 誤った薬剤の調剤 発音の似た薬剤名 | |
| 誤った局所用乳剤を塗布後、患者は皮膚潰瘍形成を認めた。この過誤は、乳剤が類似した赤印字と黒地ラベルで同じ大きさのチューブで包装されていたことに起因した。 | Yes | 誤薬投与 外観の似た包装 似た薬剤表示 皮膚潰瘍形成 | |
| 薬剤Aに過敏症のあることが知られている患者が、薬剤Aを使用後に重篤なアレルギー反応を経験した。この過誤は、ラベル表示に薬剤の完全な名称ではなく、薬剤Aの略語が使われていたことに起因する。 | Yes | 過誤につながる略語の使用 投与薬に対する記録された過敏症 薬物アレルギー反応 |
| シナリオ | 投薬 過誤 か? |
LLT | コメント |
| 患者は、ジェネリック医薬品が先発医薬品と同じようには効かないと不満を述べた。 | No | 先発品から後発品への製品代替の問題 薬効低下 | これは製品品質の苦情である。 |
| ジェネリック医薬品がブランド名の製品の代替とされた。 | Unk | 製品代替 (HLT「治療手技NEC」) | 報告されたことのみを用語選択する。この報告は過誤を特定していない。 |
| 患者は、薬局から期限切れの貼付剤を受け取った。 | Yes | 期限切れの薬剤の調剤 | |
| クリニックがバイアルに誤った指示を記載したため、患者はその薬剤を定められた週1回の服用ではなく1日1回服用した。 | Yes | 誤った指示が記載された薬剤表示 (PT「製品交付過誤」) 定められた週1回の服薬回数よりも多い服薬 | |
| その薬剤は元の容器で調剤されなければならないとラベルには表示されていたが、その薬剤はその容器で調剤されなかった。 | Yes | 元の容器で調剤されなかった薬剤 | |
| 処方箋が判読できず、薬局は誤った薬剤含量を調剤した。 | Yes | 誤った薬剤含量の調剤 手書き処方せんの判読不能 | |
| 薬局は、薬局ラベルを貼付したことで推奨される保管情報が不鮮明となった薬剤を調剤した。製品は誤った温度で保管された。 | Yes | 誤った箇所への薬局ラベル貼付(PT「製品交付過誤」) 製品保管過誤 | これはLLT「誤った箇所への薬局ラベル貼付」で記録される具体的な過誤である。同じPT「製品交付過誤」の下位にあることから、LLT「調剤過誤」を追加で用語選択する必要はない。 |
| シナリオ | 投薬 過誤 か? |
LLT | コメント |
| 患者の国際標準比(INR)がラベルに推奨された通りにモニターされていなかったため、患者は血栓塞栓症で入院した。 | Yes | 薬剤モニタリング手順非実施 血栓塞栓症 | |
| 文献報告から薬物相互作用によって患者が低血圧を発現する可能性があるとする仮説が述べられた。 | No | 薬物相互作用 低血圧 | |
| 手術中の患者は、アモキシシリンを投与された後に1型過敏症を発現した。その患者の電子カルテだけには、アモキシシリンアレルギーの既往歴が記載されていたが、麻酔用のソフトと病院の電子カルテとの間での相互連携の運用が欠如していたため、この情報は転送されていなかった。 | Yes | ケアの移行時の投薬過誤 ソフトウェアの相互運用性の問題 1型過敏症 投与薬に対する記録された過敏症 | |
| 抗凝固剤を服用中の患者が手術を受けたが、見落としにより、ラベル表示で推奨されている抗凝固剤の術前中止がなされず、患者は術後に出血した。 | Yes | 投薬中止の失敗 術後出血 | |
| ヘルスケアプロバイダーは、薬物相互作用の可能性に気が付かなかったため、薬物相互作用が知られている二種類の薬剤を処方した。 | Yes | ラベル表示された薬物-薬物相互作用による投薬過誤 処方過誤 | |
| 患者のリチウムレベルはモニターされていなかった。 | Unk | 治療薬モニタリング検査非実施 |
| シナリオ | 投薬 過誤 か? |
LLT | コメント |
| 介護者は、インスリンペン型注入器を準備する際に、内側の針カバーを注射針から外すことに気付かなかった。 | Yes | 使用準備中の製品組立過誤 | |
| 製品は誤った希釈液で調製された。 | Yes | 誤った溶解液による薬剤再調製 | |
| 薬局は誤った含量の製品を配合した。 | Yes | 製品配合過誤 誤った含量 | |
| 患者は二つのコンポーネントからなる製品の一つのコンポーネントのみを受け取った。看護師が投与前に二つのコンポーネントを混合する必要があったことに気付かなかったことが原因であった。 | Yes | 製品調製過誤 2つのコンポーネントからなる製品の1つのコンポーネントのみの使用 | |
| ラベル表示にある二つの有効成分含量の記載方法に関連した混同のため、薬局は間違った濃度で調製した。 | Yes | 誤った濃度調製 製品表示の含量の混同 | |
| 調剤技師は、溶解後にバイアルの内容物を5分間混和するという指示に従わなかった。 | Yes | 製品調製過誤 | LLT「製品調製過誤」(HLT「製品調製過誤および問題」の下位)は、LLT「製品使用過程における誤った技法」(HLT「投薬過誤、製品使用過誤および問題NEC」の下位)」より特異的な用語である。 |
| 呼吸療法士は、吸収筒(canister)を吸入器(inhaler)の誤った口に接続した。 | Yes | 使用準備中の製品組立過誤 |
| シナリオ | 投薬 過誤 か? |
LLT | コメント |
| 薬剤は誤って認可外での使用(unauthorised use)で処方された。 | Yes | 処方過誤 | これは処方過誤である。適応外使用は、処方過誤に加えて用語選択されるべきではない。適応外使用は企図的行為であり、過誤ではない。 |
| 薬剤名の発音が似ていたため、薬剤Yではなく、薬剤Xが意図せず処方された。 | Yes | 処方過誤 発音の似た薬剤名 | 根本原因としての混同を特定できるようにすることが重要である。 |
| 0.4 mg/kgではなく、4 mg/kgで処方された。処方者はすぐに気が付き、看護師に電話したが、看護師は既に薬剤を投与していた。 | Yes | 用量処方過誤 薬剤投与量過誤 | 過誤は検出されたが、回避が間に合わなかった。 |
| 患者は別のインスリン製剤に変更されたが、処方箋に用量調整が記載されていなかった。誤用量を投与された患者は低血糖を発現した。 | Yes | 用量処方過誤 薬剤投与量過誤 低血糖 | |
| コンピュータ化医師オーダーエントリーシステム(CPOE)の入力エラーのため、患者は適量の倍量を処方された。 | Yes | 用量処方過誤 CPOE過誤 | |
| 難治性痙攣発作で複数の薬剤を服用している患者に、禁忌薬剤を処方された。 | Unk | 禁忌薬剤の処方 | LLT「痙攣発作」は病歴として記録されるべきである。 |
| 患者は1 mgの錠剤を半錠に分割した0.5 mgを処方された。 | Unk | 報告された情報の中には用語選択する事象はない。これが処方過誤、適応外使用あるいはどちらでもないのかは不明である。もし、これが唯一の情報であれば、これは症例(case)ではなく、記録されるべきではない。 | |
| 患者は、長年不眠のため、1日1錠の薬剤を処方されていた。その製品の使用上の注意には、この製品は2週間以上服用すべきではないと記載されている。 | Unk | 処方に基づくラベル表示の治療期間の延長 (PT「製品処方の問題」) | 選択されたLLTは、「処方」と「延長」の両方の概念を反映する。 |
| 高齢の男性は不適切な薬剤Aを処方された後、めまいを感じて転倒した。 | Unk | 不適切な処方 めまい感 転倒 | LLT「不適切な処方」は記述記載で具体的に書かれている場合に選択する。処方が適応外か過誤か不明の場合、LLT「製品処方の問題」あるいは類似の用語を選択する。 |
| 詳細不明のアヘンを不適切に漸減 (downtitrated)された後、患者は離脱症状のために入院した。 | Yes | アヘン離脱症状 不適切な薬剤漸増漸減 | LLT「不適切な薬剤漸増漸減」は、薬剤の漸増漸減の過誤が確かである場合のみに選択される。 |
| 低血糖のため、患者は漸増漸減スケジュールのステップ2で今週も投薬量を維持(追加の漸増を行わない)することを決めた。 | No | 低血糖 | 有害事象による治療の中止や調整は、過誤や企図的誤用には当たらない。治療の中止や調整は、通常はデータベースや症例報告の有害事象とは別のところで記録され、この場合は有害事象や副作用のみが選択される。 |
| 患者は、0.25 mgの用量(適応外の開始用量)を処方された。 | No | 適応外投与 | |
| 医師は静脈内注射薬について誤った投与速度を指示し、患者は低血圧を発現した。 | Yes | 処方過誤 誤った投与速度 低血圧 | |
| 静脈内投与のみが承認されている薬剤が、適応外の経口投与で使用された。 | No | 未承認の投与経路に対する適応外使用 | |
| 処方者は二つの薬剤が同じ有効成分を含むことに気付かなかったため、患者は偶発的に重複した治療を受けた。 | Yes | 薬剤重複処方過誤 同一有効成分による重複治療 |
| シナリオ | 投薬 過誤 か? |
LLT | コメント |
| 高齢の患者は、白内障のため目がよく見えず、ついには小児用製剤を買ってしまったと述べた。 | Yes | 製品選択過誤 | これは製品名の混同ではない。白内障は病歴として捉えてよい。 |
| 薬剤名を混同したため、薬剤師は誤った薬剤を選択したが、この過誤は薬剤の調剤前に発覚して訂正された。 | Yes | 回避された誤った薬剤の選択 薬剤名の混同 | 過誤の原因、過誤のタイプおよび過誤が回避されたことを記録することは重要である。このシナリオで、LLT「回避された誤った薬剤の選択」は、回避された選択過誤とその過誤のタイプ(誤った薬剤)の両方を、一つの用語で記録している。 |
| 病院が誤った血液バッグを選択し、患者は手術前と手術中に誤った血液型の輸血を受けた。 | Yes | 誤った製品の選択 不適合輸血 | |
| 店員は卸売業者に誤った薬剤を発注した。その薬剤は医薬品発注カタログ中で隣に掲載されており、薬剤名が非常に類似していたからである。 | Yes | 誤った薬剤の選択 文字の似た薬剤名 |
| シナリオ | 投薬 過誤 か? |
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| 医療施設は、調製後30日の推奨期間を越えてシリンジ内に保管していた薬剤を患者に投与したことを報告した。これらのシリンジの一つを使用した患者が、薬剤が効かなかったと報告した。 | Yes | 未使用製品の不適切な保存 期限切れの薬剤投与 薬効欠如 | LLT「品質不良薬剤の投与」は選択されるべきではない。なぜなら、選択されたLLT「期限切れの薬剤投与」の方が、より具体的な用語だからである。 |
| ワクチン製品が薬局において、指定された温度以上で保管されていた。 | Yes | 高すぎる温度の製品保管過誤 | この過誤は薬物使用プロセスの中で発生したことから、投薬過誤である。 |
| 薬剤が不注意で誤った棚に置かれていたため、薬局の従業員はそれを見つけることができなかった。 | Yes | 誤った場所での薬剤保存 | |
| 卸売業者が閉店していた週末にかけて、製造業者から送付された薬剤箱が、高温状態の屋外に放置されていた。 | No | 製造製品保管の問題 (HLT「製品流通および保管の問題」、SOC「製品の問題」) | この保管の問題は投薬過誤ではない。なぜなら、製品が薬物使用システムに到達する前に、製造、流通および保管活動下で発生したからである。 |
| 薬局は、患者が入院中に患者自宅に薬剤が届くように交付した。その薬剤包装は、2日間氷点下の温度で屋外に置かれた(当該薬剤は凍結させるべきではない)。 | Yes | 低すぎる温度の製品保管過誤 | この過誤は製品使用プロセスの中で発生したことから、投薬過誤である。 |
| 製造者は、卸売業者によって不適切な保管状態にさらされていたことが判明した薬剤Xの特定ロットの回収を発表した。 | No | 製造製品保管の問題 回収対象製品 | この保管の問題は投薬過誤ではない。なぜなら、製品が薬物使用プロセスに到達する前の、製造、流通および保管活動中に発生したからである。 |
| 薬局は、誤った薬剤を自動調剤装置に間違って保管した。報告者は、当該過誤が生じた原因について、二つの薬剤が似た容器表示で同じような大きさのバイアルに包装されていることを挙げた。 | Yes | 誤った薬剤のストック 似た薬剤表示 製品包装の混同 |
3.2.11 製品の処方転写過誤およびコミュニュケーションの問題
| シナリオ | 投薬 過誤 か? |
LLT | コメント |
| 医療従事者は薬剤Aの処方を電話で伝えたが、薬局は処方箋に薬剤Bと記載した。 | Yes | 処方転写過誤 | |
| データ入力過誤のため、薬局は有効成分600 mgではなく800 mgで調剤した。 | Yes | 製品データ入力過誤 誤った薬剤含量の調剤 | |
| 内科医はインスリン ペン製剤を指示したが、薬局で処方転写過誤が発生し、患者は代わりにシリンジ付きインスリン バイアル製剤を調剤された。 | Yes | 処方転写過誤 誤った医療機器の交付 | |
| 患者はコミュニケーションの問題があり、自閉症の疑いと診断された。 | No | コミュニケーション障害 自閉症 | 例示では「問題」と「コミュニケーション」という用語が含まれるが、これは投薬過誤ではない。これは、LLT「製品コミュニケーションの問題」ではなく、むしろLLT「コミュニケーション障害」で捉えるべきである。 |
製品品質に関する問題の包括的なトピックは、製品品質、供給、流通、製造および品質システムの問題を含む。このトピックは、MedDRA用語選択: 考慮事項(MTS: PTC)文書の製品品質に関する問題の項をより発展させた本章および第5章で取り上げる。
本章は、臨床の場あるいは顧客のクレームを通して報告された、流通製品の製品品質に関する問題の用語選択を取り扱う。
第5章 製造および品質システムの問題(Manufacturing and quality system issues)では、特定の製造上の逸脱や不適合(manufacturing deviations or non-conformances)を取り扱う。
本章は、下記の三つの主なパートに分かれている。
● 背景: 医療製品における製品品質に関する問題の概念
● 製品品質に関する問題の用語選択事例(例示の用語はMedDRAバージョン27.1に基づく)
● データ探索と検索の戦略:ガイダンスと考慮事項
謝辞
PtC-WGは、本文書の本章に対して多大な貢献を果たした下記の方々に深謝致します。
Kirubel Assegid, Chemist, FDA, United States
Elise Murphy, Supervisory, Consumer Safety Officer, FDA, United States
Maria R. Thomas, Consumer Safety Officer, FDA, United States
Georgia Paraskevakos, Patient Safety Specialist, Health Canada, Canada
4.1 背景
製品品質に関する問題を認識することは、患者の安全に影響を与える可能性があることから重要である。製品品質に関する問題は異常(abnormalities)として定義され、さらに不適合(規定された製品仕様に適合しないこと)として知られ、サプライチェーンのあらゆる段階で発生する可能性がある。これらの問題には、製品の製造、ラベル表示、包装、出荷、取り扱いや保管が含まれている。製品品質に関する用語は、製品の欠陥を規制当局に報告するために使用されるであろうし、また、組織内データベースで品質の問題や逸脱を追跡し傾向を知るために使用される場合もあるであろう。製品品質に関する問題は、臨床上の影響の有無にかかわらず発生する可能性がある。さらに、すべての製品品質に関する問題をユーザーがすぐに検出できるわけではない。
製品品質に関する問題は有害事象に関連して、あるいは製品品質の監視システムの一環として報告される可能性がある。同様に、患者の安全性データが、製品品質に関する問題のエビデンス調査の手助けとなる可能性がある。製品品質に関する問題についてのMedDRAコーディングルールにより、データ入力の一貫性が促進され、市場で不適合製品が検出された場合の健康上のリスク評価のサポートに必要なデータ検索をより円滑に進めることができる。
製品品質の監視システムに報告される可能性のあるその他の重要な問題には、消費者の関心に基づくクレーム(consumer preference complaints)が含まれ、それには報告者が製品品質に対して主張を行うというよりは、製品や包装デザインへの不満の意思を伝えているものがある。例としては、固形剤型の液剤化についての要請、ボトルからブリスター包装への変更やボトル当たりの錠剤数増量の提案、そして小児向け懸濁液には色素を入れないバージョンの要望などである。これらには、製品品質の不適合を表していない場合や、報告された臨床上の影響がない場合、もしくはその両方の場合があるが、これらは製品および包装デザインや表示の向上を促す情報として価値がある可能性と、製品のベネフィット・リスクのプロファイルに影響を及ぼす可能性があるかもしれない。
SOC「製品の問題」は二つのHLGTを含み、その一つはHLGT「製品品質、供給、流通、製造および品質システムの問題(Product quality, supply, distribution, manufacturing and quality system issues)」である。このHLGTの下位は、HLT「製品包装に関する問題(Product packaging issues)」、HLT「製品物性に関する問題(Product physical issues)」、HLT「模造製品、偽造製品および規格外製品(Counterfeit, falsified and substandard products)」、およびHLT「製品の汚染と滅菌に関する問題(Product contamination and sterility issues)」を含むHLTカテゴリーである。報告された情報(reported verbatim information)を最も正確に反映するMedDRA下層語(LLT)を選択する必要がある。これには、検索機能を使用するか、または、MedDRA階層を適切なLLTまで辿れるブラウザのSOC画面を使用することで実現できるかもしれない。
SOC「製品の問題」は、臨床または患者に関連する概念よりも、製品に関連する問題に焦点を当てている。そのため、このSOCにある用語の大部分は単軸であり、患者に発現する“障害(disorder)” に関連した他のSOCへの多軸リンクは必要としない。しかし患者に関連する問題を示すいくつかの製品品質の用語もあり、患者の安全性へのリンクを維持するため、多軸の用語もある。例えば、PT「製品を介する感染因子の伝播(Transmission of an infectious agent via product)」は、プライマリーSOC「感染症および寄生虫症」にリンクし、SOC「製品の問題」とセカンダリーリンクしている。ほとんどの製品品質の用語は単軸で、SOC「製品の問題」にのみ配置されていることは、クエリーやその他の検索戦略を設計する際には考慮されるべきである。
特定の製品品質に関する問題の用語(例.「製品コーティングの不完全」)の解釈は、MedDRA手引書(付表B.用語概念の記述)に述べられている。
| シナリオ | LLT | コメント |
| 錠剤のボトルを開けた薬剤師は、かびによる異臭に気付いた。 | 製品の異臭 製品のかび汚染 | 異臭はかびによる汚染の結果であるとの報告者の発言に対して用語が追加された。これは生物汚染の一種でもある(項目4.2.2参照のこと)。 |
| 患者は、チュアブル錠が硬すぎて歯が折れたと述べた。患者は製品に欠陥があったと疑っている。 | 噛み砕きにくい薬剤 歯牙破折 錠剤の物理的問題 | 製品品質の問題(LLT「錠剤の物理的問題)は、報告者の報告を基にしている。その情報がない場合、製品品質に関する問題は、推測されるべきではない。 |
| 母親は、チェリー風味とラベル表示された懸濁液を子供に与えたが、それはミントとすぐに分かる味がしたと述べた。 | 製品の異味 | LLT/PT「製品の異味」はHLT「製品物性に関する問題」にリンクし、製品品質の問題であることに注意されたい。別の用語、LLT「味覚異常」(PT「味覚障害」)は、患者の障害であることが示唆され、HLT「感覚異常NEC」とHLT「味覚障害」にリンクする。正しい用語選択を確認するために、階層構造を常に確かめること |
| ワクチンのカートンを開封した看護師は、バイアルに黄色の液体が入っていることに気付いた。 その製品のラベルには無色と記載されている。 | 製品色調の問題 | このシナリオでは、ラベル表示された色/味(その他)と実際の色/味(その他)に食い違いがあることに触れていることから、製品内容が誤っているか、あるいはラベル表示が誤っているかのどちらかである。HLT「製品表示に関する問題」に包含される用語は、報告者がラベル表示の誤りであることを指摘した場合でのみ選択されるべきである。 |
| 薬瓶を開封した薬剤師は、いくつかの錠剤が破損しているのを見つけた。 | 錠剤の欠け | |
| 患者は自分の便中に原形を保ったままの錠剤を見つけ、錠剤の品質が低いに違いないと苦情を付けた。 | 錠剤糞便中排出 製品品質の苦情 | このLLT「錠剤糞便中排出」は、PT「残留製品存在」の下位にあり、SOC「臨床検査」に含まれる。これは通常、製品の不適合ではないが、何か問題がある、または錠剤が低品質であるという患者の認識に関わることである。 |
| 女性患者は、避妊薬の悪臭と以前とは違う味に気付いた。 | 製品の異臭 製品の異味 |
| シナリオ | LLT | コメント |
| 外科医が静脈カテーテルの滅菌包装を開封したところ、包装内部に昆虫がいることに気付いた。外科医は、その包装一式を廃棄し、清潔で未開封の別の包装と交換した。 | 製品への昆虫混入 | 患者が関与した証拠の有無にかかわらず、この情報はユーザーの施設による収集と報告を必要とする可能性がある。 |
| 看護師がプレフィルドシリンジを検査したところ、薬液中に浮遊する粒子が発見された。そのシリンジはクリニックにおけるその薬剤で利用できるプレフィルドシリンジの最後の在庫品だった。 患者の治療は、翌週、その製品が再度入手できるまで延期された。 | 液状製品中の粒子状物質 治療の一時中断 製品供給力の問題 | 報告された情報は、製品が利用できない理由を具体的に述べていない。製品が利用できないことは、しばしば供給中断の結果ではあるが、ここで供給には言及されていないことから、この例示においてLLT「製品供給の問題」を推察すべきではない。 |
| 消費者はアンプルで提供された薬を調べていたとき、その中にガラス片が混入していることに気付いたと報告した。 | 製品へのガラス混入 | |
| 患者は左目のフサリウム角膜炎感染を報告した。 患者は自分のコンタクトレンズ保存液の汚染が原因だと疑った。 | フサリウム感染 真菌性角膜炎 製品汚染の疑い 製品を介する感染因子伝播の疑い | LLT/PT「製品を介する感染因子伝播の疑い」は多軸であり、プライマリーSOC「感染症および寄生虫症」とセカンダリーSOC「製品の問題」にリンクしている。 |
| シナリオ | LLT | コメント |
| 患者は自宅への薬の発送が遅延したと苦情を述べた。 その結果、患者は薬を切らして数回投薬できなくなり高血糖を発症した。 | 製品出荷遅延 患者の薬剤切れ 治療中断 高血糖 | 外部環境による投薬欠落は投薬過誤と考えるべきでなく、PT/LLT「治療中断」またはPT/LLT「治療遅延」を用語選択する。 |
| シナリオ | LLT | コメント |
| 患者は、薬瓶に表示された有効期限が色あせたために読み取ることができなかった。 | 製品使用期限の判読不能 | |
| 消費者(consumer)がボトル入り乳児用懸濁液の入ったカートンを開封したところ、 付属の添付文書は成人用錠剤のものであった。 | 誤った製品の添付文書 | |
| 患者はプリントが読みにくいため、眼科用軟膏チューブ上の投薬スケジュールを誤読したと述べた。その結果、患者は当該製品を、推奨された1日1回ではなく1日2回使用した。患者の両眼に刺激症状が発現した。 | 製品表示の文字の判読不能 定められた1日1回の服薬回数よりも多い服薬 眼刺激 |
| シナリオ | LLT | コメント |
| 点滴投与施設(infusion facility)から患者に連絡があり、患者は偽造薬を投与されていたことを知らされた。 患者は治療のため施設に戻るように勧められた。 | 偽造製品の使用 | このLLTは、プライマリーSOCとしてSOC「傷害、中毒および処置合併症」に、セカンダリーSOCとしてSOC「製品の問題」にリンクする。LLT「偽造製品の使用」は、偽造製品が確認された場合にのみ選択される。 それ以外の場合は、LLT「偽造製品の疑い」が選択されるべきである。 |
| クリニックの管理者(clinic manager)は、新しいサプライヤーからのワクチンのカートンを検査したところ、製品のブランドが以前のカートンとは異なっていることに気付いた。 彼はそれが本物の製品ではないと疑った。 | 偽造製品の疑い | |
| 消費者は数年にわたって薬を使用してきた。 新規購入したその単位包装(unit)は、過去の経験と比較して効果がみられなかった。患者はその製品が偽造品であると疑った。 | 偽造製品の疑い 薬効欠如 |
一般的に、“薬剤不足”は薬剤の需要あるいは需要計画が薬剤の供給を上回る期間を示している。供給の中断は、理由不明の製造や製品品質の問題に関連し、そして需要の予期せぬ上昇、自然災害あるいは生産中止に関連して起こる。
| シナリオ | LLT | コメント |
| 患者は薬剤師から、患者の薬剤は数カ所の製造施設が閉鎖され供給不足になったため、提供できなくなったと伝えられた。患者の担当医は代替療法の処方を行った。 | 供給不足 製品供給の問題 薬物療法変更 | 供給不足は薬剤の入手不可という結果になった。 |
| 薬剤師は、患者の薬はCOVID-19のパンデミックのために提供できなくなったと患者に知らせた。 | パンデミックによる製品供給不能* |
| シナリオ | LLT | コメント |
| 患者がカートンから薬のボトルを取り出したとき、不正開封防止シール(tamper evident seal)が貼ってなかった。 | 製品容器封緘の問題 | |
| 消費者は薬のボトルを調べてみたところ、チャイルドレジスタンス機能付きキャップが機能していないことに気付いた。 | チャイルドレジスタンス機能付き製品の密閉不具合 | |
| 看護師はブリスターパッケージが完全に密封されていないことに気付いた。 | 製品ブリスター包装の分離 | |
| ある女性が自分の避妊薬にはプラセボ錠が欠けていると報告した。 | 単位用量包装の欠損 |
製品品質に関する問題は、患者の安全性の懸念につながる可能性があるが、安全性の懸念は製造業者や患者にとって必ずしも常に検出できるものではない。検出された場合は、不適合を改善する機会が作られたこととなる。
適切なデータ入力の実施によって、安全性データ上での製品品質に関する問題の検出と検索が容易になる。一方で、製品の品質に関する苦情を収集するために複数のデータベース(例.安全性データベースと品質データベース)が使用される可能性があることを知っておくことも重要である。有害事象と品質に関する苦情データのコーディングがデータベース間で異なること(例.異なる辞書やコーディングされないデータ)を含め、データベースの潜在的な特性を認識しておく必要がある。
概して、医学的な安全性データのレビューにより、製品品質の逸脱を継続的、定期的そして臨機応変に検出できるかもしれない。継続的にリアルタイムのレビューを行うことで、製品品質に関する問題は個別症例安全性報告(ICSR)を基に検出が可能であり、あるいは、不釣り合いな数の有害事象報告があったバッチ/ロットを基に検出することも可能となる。
製品品質に関する問題の定期的なレビューは、一般的にその製品固有である。それは、レビュー範囲に応じ、ある固定スケジュールで実施された集積有害事象のレビューによって行うことができる。または、品質システムに報告された事象のレビューによって実施可能となる。データがMedDRAでコード化されている場合、製品品質の問題に関するMedDRA用語に基づいてカスタマイズされたデータフィルターを作成および適用することにより、検索とデータ出力を容易に実施できる。あるデータレビュー戦略を策定し維持する場合、レビュー戦略と用語を文書化することが重要であり、かつMedDRAのリリース毎にレビュー結果を文書化し用語更新することが重要となる。通常、定期的なレビューは、データの異常を見つけるために実施される。従って、品質に関する特定の苦情の増加は、新しい仮説を立てることにつながるであろう。このタイプの品質問題で発生すると疑われる有害事象用語を検索することにより、さらに検証が必要になる可能性がある。
データのレビューは、ロット別(つまり、当該ロット内のすべての有害事象)でもよいし、または問題別(つまり、ロット番号の有無にかかわらず、規定した有害事象用語リストのすべて)、あるいはその両方でもよい。流通(Distribution)の日付と場所も、このタイプのデータレビュー戦略に組み込むことができる。この有害事象の用語リストは、不適合な製品への曝露の結果かもしれない医学的な状態を反映する必要がある。例えば、文書化されていない潜在的なアレルゲンを含む製品の評価には、過敏症の概念を反映するMedDRAの用語を含める必要がある。これを効率的に達成するために、「過敏症(SMQ)(Hypersensitivity (SMQ))」を適用することができる。生物汚染の影響を受けた製品の評価には、もし分かれば、その汚染に対する広義かつ特異的な感染の概念を反映するMedDRAの用語を含める必要がある。
製品品質のデータ評価が継続的、定期的、または原因ベースのいずれであっても、MedDRAを使用することで品質に関する問題をより容易に検出または検索できるようになる。これは医学的評価の完全性(integrity)を向上する。
この章の目的は、製造および品質システムの問題に関する用語選択を容易にするために、MedDRA用語選択:考慮事項(MTS: PTC)文書の製品品質に関する問題の項をより発展させることである。本章は、規格(specification)に適合しない工程内原材料または流通製品に関する問題、あるいは特定の製品または原材料に関連しない問題の特徴付けに適用できる。製造および品質システムの問題は、通常、製品の完全性(integrity)および設定規格の遵守に影響を及ぼす可能性のある技術的評価の形で企業(industry)から発生する。これらの問題は、潜在的に流通製品に影響を及ぼす可能性があり、また知らないうちに既に影響を及ぼしている可能性もある。本文書は、いかなる規制上の報告要件も義務付けていない。
本章は、下記の三つの主なパートに分かれている。
● 背景:製造および品質システムの問題の概念
● 用語の使用と報告
● 製造および品質システムの問題の用語選択事例(例示の用語はMedDRAバージョン27.1に基づく)
謝辞
PtC-WGは、本文書の本章に対して多大な貢献を果たした下記の方々に深謝致します。
Tom Brusselmans, Scientific Administrator – GMP and Manufacturing, Human Medicines Inspections Office, EC, Europe
Kirubel Assegid, Chemist, FDA, United States
Jean Ennis, Regulatory Specialist, FDA, United States
Elise Murphy, Supervisory Consumer Safety Officer, FDA, United States
Shahla Parvizi, Pharmacist, FDA, United States
Maria R. Thomas, Consumer Safety Officer, FDA, United States
Janeen Skutnik-Wilkinson, Director, Regulatory Intelligence, Moderna, EFPIA
Tomasz Zawislak,Senior Director, Head of Audits and Inspections Management, Merck KGaA Darmstadt, Germany, EFPIA
Nina S. Cauchon, Director Regulatory Affairs, Amgen Inc., PhRMA
Julia Diniz Calatrone, Health Regulation Specialist, ANVISA, Brazil
Wondiyfraw Worku, WHO
Dimitri Yakunin, Roszdravnadzor, Russia
5.1 背景
MedDRAは、ICHの支援下で開発された用語集である。単一の標準化された用語集を使用することにより、規制当局への報告およびサーベイランス、規制上の情報伝達、データの評価における一貫性が促進され、企業、臨床研究機関および外部データベース間でのデータ交換も容易になる。MSSOは、ICHにより指名され、MedDRAのメンテナンス、開発および配布を委託された。ICH MedDRA管理委員会(Management Committee)の監督下、MedDRAは世界中の規制当局および企業の進化するニーズを満たすために継続的に強化されている。MedDRAを使用するかどうかは、各組織の裁量に委ねられるか、その地域の規制当局が決定する場合もある。
HLGT「製品品質、供給、流通、製造および品質システムの問題(Product quality, supply, distribution, manufacturing and quality system issues)」は、SOC「製品の問題」に含まれる。このHLGTには、HLT「製造原材料等の問題(Manufacturing materials issues )」、HLT「生産製造の問題(Manufacturing production issues )」など、製造および品質システムに固有のいくつかのHLTが含まれる。各HLTに含まれるPTには、グループ化された不適切な装置の適格性確認(qualification)、製品接触面(product contact surfaces)の洗浄および消毒、製造および試験方法、校正(calibration)および保守、ならびにコンピュータの適格性確認、バリデーションおよびセキュリティに関連する特定のLLTがリンクする。製造および品質システムの問題は、製品の品質不良(quality defect)に関連する場合と関連しない場合がある。この関連する、または結果として生じる不良については、本文書の第4章 製品品質に関する問題で述べているように、用語集の追加用語に含める必要がある。
製造および品質システムの問題の分類にMedDRA用語を導入することは複雑なプロセスである。最初のステップには、特定の概念に対してMedDRA用語を組み込むことと、用語選択のガイダンスとなる本文書の新しい章を公開することが含まれる。この用語集と本文書は、規制当局と企業の協力、例示、およびユーザーからのフィードバックを通じて、さらに発展させる予定である。
本章の目的は、市販製品の製造、分析または微生物学的検査、製造および流通に関連する市販後の欠陥(post-market defect)をコーディングする際の例示と明確さを提供することである。これにより、製造業者および規制当局は、製品の品質不良のシグナルと傾向を観察することができる。現在の用語集と例示-シナリオは、低分子およびすべての製品に共通する問題(例.汚染、包装、流通)に焦点を当てている。
同様に、製品の機器コンポーネント(device component)にも製造上の不適合および機器の操作に関する問題を含む場合がある。現在のMedDRA用語集には、報告された品質に関する問題の記録を容易にする用語がHLGT「医療機器に関する問題(device issues)」に含まれている。
製造および品質システムの問題のPTにリンクするLLTは、通常、単なる同義語以上であり、より具体的な情報を含むことが多い。LLTレベルの粒度・精度(granularity)でコーディングすることにより、報告された情報を特定して記録し、LLT、PT、HLTレベルでのシグナル検出および傾向のデータ分析が可能になる。
製品の品質不良は、有害事象や投薬過誤につながる可能性がある。両タイプの報告をMedDRA用語集でコーディングすることにより、製品品質と有害事象の領域をリンクさせることができる。
MedDRAは、多言語で利用可能な標準化された用語集である。従って、MedDRAは製造および品質システムの問題を含む情報伝達を容易にする。共通の用語集を使用することによって、規制当局やその他の利害関係者を含む外部からのデータ解析がより容易になる。 また、規制当局および企業の双方において、製造品質部門と安全性部門との相互作用も促進される。
5.2.2 用語集の特徴、調和、サーベイランスおよび品質リスク管理
MedDRAの包括的で動的な性質により、ユーザーは広く受け入れられている本用語集を活用し、あらゆる製造技術や製品に適合するように追加変更を要請できる。MedDRAはグローバル化しており、柔軟性があり、拡張可能でバージョン管理されている。企業独自の「自家用」用語集は、精緻化でき、階層構造を持つことができるが、複数のカテゴリの一元管理は煩雑であり、検証された状態を維持するのが困難である。新しいプロセス、製品および製品タイプ(例.包装形態、送達機器)に対応するために用語を追加する必要がある。MedDRAには、追加変更要請(CR)の明確なプロセスがある(MedDRAウェブサイトのCR要請ページを参照)。品質と安全性の概念に単一の用語を使用することで、両領域を横断するデータ解析も可能になる。
効果的な品質リスク管理に取り組むことにより、製品ライフサイクルを通じて製品の安全性および有効性に寄与する潜在的な品質に関する問題を特定するための積極的な手段を提供することができる。「製造および品質システムの問題」は、患者の転帰を通じてのみ確認される「製品の不適合(product non-conformance)」または「製品品質に関する問題(product quality issues)」として顕在化することがある。このようにして、安全性データは製造データと相関し、品質変動に根ざした有害事象のパターンを特定することができる。品質データは、安全性シグナル評価における根本原因を知らせることができる。例えば、溶出性の規格外結果は、治療効果の欠如として顕在化することがある。
本章のシナリオは、製造および品質システムの問題のみに焦点を当てている。これらの製造および品質システムの問題の影響を受けた製品を使用した場合に生じ得る患者への影響は、本章のコーディングガイダンスの適用外である。
これらの例示には、医薬品の製造に使用される物理的環境、ユーティリティ(utility)および装置に関連する情報を分類付ける用語が含まれる。
| シナリオ | LLT | コメント |
| 複数の製品で共用されている製剤タンクが洗浄され、次の製品に向けて準備された。以前の4バッチは、規定の洗浄確認試験が未実施だったことが監査中に発覚した。次の5番目のバッチで実施された洗浄確認試験において、製造試験室の分析担当者(lab analyst )は、タンクから採取されたサンプルのうちの1つが薬物残留の許容限度を超えていることを指摘した。 | 製造装置の清掃の問題 製品汚染の疑い | 複数の製品で製剤タンクを共用している場合には、LLT「製品汚染の疑い」を追加選択すべきである。LLT「製造原材料等の汚染」は、検査結果が確認された場合は追加してもよい。 |
| 無菌充填ラインの充填スペースへの給気用HEPAフィルター(高性能エアフィルター)の6ヵ月毎の定期的な再適格性確認(requalification)において、8つのHEPAフィルターは、効率要件に適合しなかった。 | 製造装置の高性能エアフィルターの問題 | このシナリオで、LLT「製造装置のフィルターの問題」を用いることができるが、LLT「製造装置の高性能エアフィルターの問題」の方がより具体的である。 |
| バイオリアクターのインペラ動作は、バルク培養の段階で停止した。市販製品への影響評価は保留されている。 | 製造装置の問題 | 調査により、市販製品の検査サンプルでかびが確認された場合は、LLT「製品のかび汚染」を選択することが妥当である。 |
| グレードA/B 区域でかびが検出された。拡大調査では、市販製品が影響を受ける可能性のある施設区域でもかびが検出された。 | 製造施設の問題 製品汚染の疑い | 調査により、市販製品の検査サンプルでかびが確認された場合は、LLT「製品のかび汚染」を選択することが妥当である。 |
これらの例示には、試験室管理、規格外(OOS)の製品特性および検査問題に関連する情報を分類するための用語が含まれる。OOSの結果には、医薬品申請書、ドラッグマスターファイル(DMF)や公定書において製造業者が設定した規格または判定基準(acceptance criteria)の範囲外にあるすべての試験結果が含まれる。また、判定基準に適合しない安定性試験結果も含まれる。
| シナリオ | LLT | コメント |
| 製造試験室の分析試験は、試験結果を生成するソフトウェアのアルゴリズムに左右される。データ分析ソフトウェアでは、生データがファイル保存される。生データのファイルが処理されると、データ処理方法も保持され、データ出力には元のファイル名の末尾に連続した文字が追加されたファイル名が付与される。しかし、最初に処理された結果のセットを再処理する必要があっても、元の処理結果の電子ファイルは保存されず、上書きされる。分析ソフトウェアには、再処理された結果の最後のセットのみが保持される。データの完全性は維持されず、流通しているバッチも含めた結果を確認できない可能性がある。 | 製造試験室データ管理の問題 | |
| 安定性試験の検体サンプルは、パンデミックの間、現場の人員不足のため、プロトコールに規定された時間間隔で採取されなかった。 | パンデミックに起因する人材不足による製造試験室の分析試験の問題 | |
| 出荷後のバッチ記録の監査中に、同定試験に誤りがあることが判明した。 | 製造試験室の分析試験の問題、同定試験実施上の誤り | |
| 規制当局への提出書類に要求されるバッチ出荷規格には、ナトリウムの同定試験がある。しかしながら、バッチ出荷記録の審査から、このナトリウム同定試験は未実施であり、製品原料が流通した可能性があることが判明した。 | 製造試験室の分析試験の問題、同定試験非実施または記録なし | |
| 製品Xのバッチ記録の監査中に、承認された試験方法が実施されていないことが判明した。有効成分の濃度を算出するために使用されたクロマトグラムは手動で積分され、118μg/mLと結果報告された。機器のプリントアウトには、手動での積分について説明が記録されておらず、元の(自動積分された)クロマトグラムの目視検査では手動での積分が必要であることは示されていなかった。元のクロマトグラムのピーク面積を用いて、当該濃度を計算した分析結果は190μg/mLであり、許容基準である「120μg/mL 以下(NMT)」を超えていた。 | 力価の規格外試験結果 製造試験室データ管理の問題 | |
| 医薬品モノグラフには、2つの有効成分AおよびBの力価が記載されている。バッチリリース試験の審査から、力価試験は有効成分Aのみで実施され、有効成分Bについては未実施であることが判明した。この問題は出荷後に見つかった。 | 製造試験室の分析試験の問題、力価試験非実施または記録なし | |
| 関連物質の高速液体クロマトグラフィー(HPLC)分析において、相対保持時間が4.5~5.5分の範囲にあり、積分を阻害するレベルの面積を有するピークが生成された場合は、未知の不純物として報告されず、希釈剤またはプラセボピークとして無視されてきた。これは、流通しているバッチに影響を及ぼす可能性がある。 | 製造試験室の分析試験法の管理の問題 製造試験室の分析試験の問題、純度試験実施上の誤り | このシナリオでは、「製造試験室管理の問題」を使用できるが、LLT「製造試験室の分析試験法の管理の問題」の方がより特異的な用語である。 |
| 製品Yの長期安定性試験のサンプルは、温度および湿度が制御された条件下で保管された。プロトコールでは、6ヵ月間隔で試験サンプルを回収し、有効成分および分解生成物のレベルを測定する必要があった。12ヵ月目のサンプルは、大幅に遅れて回収され試験された。しかし、分解生成物の試験は実施されず、安定性試験のプロトコールの逸脱は記録されていなかった。前回の試験間隔では、分解生成物の結果は規格値の上限に近かったが規格内であった。 | 製造試験室の分析試験の問題、純度試験非実施または記録なし
安定性プロトコルからの逸脱が記録されていない | |
| 内部監査の結果、バッチXの管理室温下の安定性試験は、プロトコールで規定されている9ヵ月目および15ヵ月目のサンプル回収または安定性試験が行われなかったことが明らかになった。 | 製造試験室の分析試験の問題、安定性試験非実施または記録なし | |
| 無菌試験用サンプルの採取が、施設の標準手順書通りに実施されていなかった。担当者は、最終製品バイアルの代表サンプルを採取しなかった。採取したサンプル数は所定の方法と一致していたが、そのバッチの最初に充填されたものと採取サンプルの分布には隔たりがあった。採取したすべてのバイアルのサンプルは無菌試験に合格したが、そのサンプルはバッチ全体を代表するものではなかった。これは、通常のバッチ出荷判定手順では発見できなかった。 | 製造試験室の分析試験の問題、無菌試験実施上の誤り | |
| 医薬品受託製造組織(CMO)の監査において、必要とされる培養期間(14日間)の終了前に、製品リリース試験用の無菌試験培地検体が廃棄されたが、廃棄時に観察された増殖の記録がないことが判明した。 | 製造試験室の分析試験の問題、無菌試験非実施または記録なし | |
| 打錠圧縮室における硬度試験のキャリブレーション記録に不整合が認められた。 | 製造試験室管理のキャリブレーションの問題 | |
| 監査所見によれば、品質管理試験室が、不合格となった医薬品の規格外(OOS)試料を再試験し、規格内の新たな結果を得たことが明らかになった。最初のOOSの結果は無効とされ、根本原因を特定するための大規模調査および科学的に正当な再試験計画なしに、製品はリリース試験に合格したと再分類された。 | 製造試験室管理の問題 | |
| 6ヵ月間の加速試験終了時に、既知の製品不純物について規格外の試験結果が認められた。観察された結果は0.54% で、設定規格限界の0.50% 以下(NMT)を超えていた。 | 製造安定性試験の化学分析の純度の問題 安定性の規格外試験結果 | |
| 懸濁製剤の安定性試験(18ヵ月間、25°C/60% 相対湿度、水平保存条件)において、製品残留物が容器ボトルネックの周囲に認められた。容器キャップを外すと、キャップ内側のライナーが湿っており、全ての箇所における封緘(seal)が保たれているとは云えなかった。 | 製造安定性試験の容器施栓の問題
製品リーク | |
| 製造移管文書を遡及的に検討したところ、製品の安定性試験(48ヵ月間)は含量均一性の規格に適合していなかった。 | 製造安定性試験の含量均一性の問題 | |
| 安定性試験のサンプルから、規格外の浸透圧の結果が得られた。 | 製造安定性試験の問題
浸透圧の規格外試験結果 | |
| 水分含量の規格は4.0% 以下(NMT)である。安定性試験のサンプルから、規格外の水分含量4.1% の結果が得られた。 | 製造安定性試験の水分の問題
水分の規格外試験結果 | |
| 薬剤NのpH規格は6.0~7.5である。ロットXの安定性試験(25°C/60% 相対湿度 )のpHは、60ヵ月時点で8.0であった。 | 製造安定性試験のpHの問題
pHの規格外試験結果 | |
| 長期保存試験において、36ヵ月時点で規格外の測定結果が得られた。測定結果は89.9% および90.4% で、平均は90.2%であった。試験の安定性担保規格(Shelf-Life Specification)は92.5~107.5% である。 | 製造安定性試験の力価の問題
力価の規格外試験結果 | |
| 長期保存試験 (25°C±2°C/ 60%±5% 相対湿度)において、点眼液1バッチの保存剤の測定結果が規格の下限(90.0%)以下だった。12ヵ月時点では84.6%という測定結果であった。 | 製造安定性試験の保存剤の問題
保存剤の規格外試験結果 | |
| 消費者の苦情調査に関連した眼科用クリーム製剤の保存サンプルの試験において、規格外の定量結果が認められた。 サンプル部位別の定量結果は、以下の通りである(規格:90.0~110.0%)。 頭部(Head): 88.7%、 胴部(Mid): 92.5%、 巻き締め部(Crimp): 96.2% | 定量の規格外試験結果 | このシナリオにおける苦情調査は、問題が検出された背景を提供している。 |
| ロットYについて容器完全性試験(container-closure integrity testing)を実施中、ブリスター包装の10サンプルのうち2サンプルはどちらも同じ位置からのブリスターセル(cell)内への染料侵入跡が認められたため、不合格となった。 | 容器施栓の規格外試験結果
製品ブリスター包装の問題 | |
| 顧客からの苦情調査において、一単位用の送達充填量試験の結果が0.16 mLだった。承認された規格は0.23~0.42 mLである。 | 充填量の規格外試験結果 | |
| 凍結乾燥製品キットに含まれる注射用シリンジの滅菌水は、酸化性物質の放出試験に失敗した。根本原因の調査から、流通しているバッチに影響する可能性が明らかになった。 | 最終製品とともに包装されたコンポーネントの規格外試験結果
不純物の規格外試験結果 | |
| 最終製品の類縁物質試験で以下の規格外試験結果が認められた。 不純物C: 0.59% [規格: 0.5% 以下(NMT)] | 不純物の規格外試験結果 | |
| 査察指摘事項を受けて実施されたリリース試験サンプルの反復検査で、注射液20サンプル中の4サンプルで沈殿物が形成され、バイアルの底に沈殿していた。外観規格は「無色澄明の液」である。 | 沈殿物の規格外試験結果 | |
| 2ロットの点眼液が保存剤の含量試験に適合としていなかった。保存剤の規格範囲は0.28~0.48%であり、当該ロットの結果は以下の通りであった。 ロットX: 0.23% ロットY: 0.26% 調査の結果、流通しているバッチに影響することが判明した。 | 保存剤の規格外試験結果 | |
| 緩衝液について規格外の導電率試験結果が記録された。標準業務手順書によると、緩衝液の導電率試験は14日毎に実施される。 | 規格外試験結果 | 完全に一致する用語がない場合は、最も近い既存用語でコーディングし、用語の追加変更を要請する。 (MedDRAウェブサイト のCR要請ページを参照) |
| 継続的工程確認(continued process verification)において、二層錠剤バッチの第2層に含まれる有効成分の傾向外試験結果が判明した。調査では、このパターンは追加バッチでも確認され、第1層の大きな重量変動(high weight variability)が根本原因であることが判明した。 | 定量の傾向外試験結果 製品製造工程管理の問題 | |
| 錠剤の長期安定性溶出試験の結果、ステージ1およびステージ2では不合格であったが、ステージ3では12ヵ月および18ヵ月時点で合格した。 | 溶出の傾向外試験結果 安定性の傾向外試験結果 |
これらの例示は、原薬、原材料、添加剤、資材(components)、容器および施栓系などの受け入れ原材料に関連する情報を分類付ける用語が含まれる。
| シナリオ | LLT | コメント |
| 原薬の合成に使用された出発物質は、製造バッチ用に出荷する前に、登録された滴定法に従った定量試験を実施しなかった。 | 製造原材料等試験の逸脱 | |
| ふるい分け工程で原薬(API)中に微粒子状の異物が認められたが適切な影響評価を実施されずに医薬品製造が進められた。 | 製造原薬の汚染 | |
| 調剤中に、ポリエチレングリコール400液のドラム缶の底に植物材料と一致する6個の繊維状粒子が観察された。市場に出荷された最終製品への影響調査は保留されている。 | 製造賦形剤の汚染 | |
| 監査の結果、2つの最終ロットは、規格不適の添加剤ロットからの材料を用いて誤って製剤化されたことが判明した。この添加剤は、バークホルデリア・セパシア陽性のために規格不適とされた。影響を受ける可能性がある(そして出荷された)バッチによる保存サンプルの試験から、この微生物の存在が確認された。 | 製造賦形剤の汚染
製品の微生物汚染 | |
| 原料供給者(supplier)の監査において、原薬(API)の精製に用いた樹脂の受入検査から、規格の上限を超える濃度の残留溶媒による汚染が判明した。このことは原薬製造業者には報告されておらず、当該バッチは出荷されていた。その後の調査で、原薬の検査では溶媒は規格範囲内であった。 | 製造原材料等の汚染 | 最終製品に溶媒が存在する証拠がある場合には、LLT「残留溶媒の規格外試験結果」を選択してもよい。 |
| 整形外科用インプラントの抗生物質コーティングに用いるポリ乳酸(PDLLA)の供給者監査において、空の原料ドラム缶と充填された原料ドラム缶の両方から光沢のある粒子が検出された。供給者が実施した追跡調査により、流通した複数の最終製品バッチに影響する全身に及ぶ汚染問題が明らかになった。 | 製造原料の汚染 | |
| バイアル栓の受入材料検査において、栓が黄色であることを要求する部品表および各仕様書とは異なり、栓が紫色であることが判明した。影響を受ける可能性がある、流通している他の最終製品バッチの再検査においても、使われている栓の色が正しくないことが明らかになった。 | 原料容器施栓の受入規格逸脱
製品密閉の問題 | |
| 供給者から受領したボトルは、ボトル口のネジ山に過度な材料フラッシュ(flash)があることが判明した。このボトルは、欠陥が見つかる前に市販されているバッチに使用された可能性がある。調査は保留されている。 | 原料納入容器の欠陥 | |
| 一次包装材料の供給者から連絡があった。この供給者から過去9ヵ月間に納入された容器は、現在の包装仕様とは異なる材料を使用して製造されていた。 | 原料容器の受入規格逸脱 | 製品への具体的な影響に関する追加情報(例.安定性や適合性)が入手可能な場合は、それらの詳細を記述するために追加のLLTを選択できる。 |
| 原薬(API)製造業者が、承認されていない施設からの原薬が医薬品製造業者に出荷されたことを当該企業に通知した。この原薬は出荷規格に適合していることが確認され、流通製品の製造に使用された。 | 製造原薬の問題 | |
| 薬物送達デバイスの組み立て中に針ハブが割れるという供給者の苦情に関連した調査が実施され、この品質不良の影響を受けた針ハブは12バッチあることが判明した。12バッチ中、3バッチが流通製品の製造に使用された。 | 製造コンポーネントの問題 | |
| 賦形剤の供給者は、誤ったグレードの賦形剤が流通している医薬品の製造に提供されたことを品質保証部門に通知した。 | 製造賦形剤の問題 | |
| 細胞培養培地中に未同定の不純物が存在した。このことは製品が流通するまで明らかにされなかった。 | 製造原材料等の不純物 | 最終製品の品質に影響があるという証拠がある場合は、その品質問題に対して最も具体的なLLTを追加してもよい。 |
| 流通製品バッチの製造に使用された原薬の粒子径分布が不適合であった原因は、原材料における供給者の工程の逸脱であった。 | 製造原料の問題
製造原薬の問題 |
これらの例示には、製品の製造を管理する活動(工程内サンプリングや試験、工程バリデーションを含む)の失敗に関連する情報を分類するための用語を特徴としている。また、承認された製造手順を確立、遵守および/または文書化する際の失敗を表す用語も含む。
| シナリオ | LLT | コメント |
| 無菌操作の適合性モニタリングにおいて、無菌製造の従業員の中には、無菌操作オペレーターの動きの速さ、鉗子の取り扱い、およびガウン着用要件への適合などの無菌操作技術を遵守していない者がいたことが観察された。流通しているバッチの調査は進行中である。 | 製品製造時の不適切な無菌操作 | |
| バッチ記録の審査において、軟膏バッチ番号Xの処方および混合中に、軟膏ホモジナイザーが許容される最高温度を超えたことが指摘された。その後の調査で、他の流通しているバッチの特定に失敗したことが判明した。 | 製造工程管理手順実施上の誤り | |
| 顧客監査で実施された注射剤Xのバッチ記録の審査において、フィルター組立て時の無菌重要区域(aseptic core)に配置されているオペレーターの人数が、手順で許容される人数よりも多く、それは培地充填時にシミュレーションされていたことが判明した。 | 製造工程管理手順の無菌操作の問題 | |
| 環境モニタリング培地プレートの結果はコロニー形成単位(CFU)規格に合格したものとして誤って記録されたが、実際の結果は規格外であった。流通しているバッチへの影響は調査中である。 | 製造工程管理手順の環境モニタリングの問題 | |
| キャリブレーション技術者が、オートクレーブの圧力センサーの校正期限が遅れていることを発見した。このオートクレーブは、製造装置の部品を滅菌するために用いられているが、校正の結果、合格基準に適合していなかった。これは、最後に校正測定に合格してから今までの間に欠陥のある機器が使用されていたことを示している。その影響を評価するための調査が開始された。 | 製造工程管理手順の装置校正の問題 | |
| 培地充填作業中に複数の混濁したバイアルが発見された。微生物および侵入経路の同定が進行中である。 | 製造工程管理手順の培地充填の問題 | |
| バッチ流通後に、ワクチン培養器内の温度が31.5時間にわたって最高温度範囲を超えたことが確認された。 | 製造工程管理手順の温度の問題 | |
| 流通しているバッチの滅菌器負荷設定手順(load configuration procedure)は、検証された工程指図に記載されたとおりには実施されなかった。 | 製造工程管理手順非実施 | |
| 経口懸濁液の混合工程中に発生した停電によりミキサーが停止した。2時間にわたって電源が復旧せず、懸濁物質が混合タンクの底に沈殿した。原料は流通しているバッチで使用された。 | 生産製造の問題 | |
| パンデミックの制限が緩和されるまで、3つの施設での生産は停止される。 | パンデミックによる生産製造の一時中止 |
これらの例示には、製造品質管理工程の問題(manufacturing quality control procedures governing issue)および製品の包装、保管、出荷および流通の管理に関連する情報を分類付ける用語が含まれる。
| シナリオ | LLT | コメント |
| ある地域での使用が新規承認されたワクチンが、その承認前に別の地域で販売されていた。 | 流通への不適切な製品出荷 | |
| 原料は、プロセス逸脱の品質審査で隔離保管されていた。原材料管理システムへの誤入力により、製品の市場流通を許した。 | 品質管理ユニットの出荷判定前の製品流通 | 隔離保管の理由が提供されていた場合は、LLT「必須試験実施前の製品流通」のような、より具体的なLLTを選択してもよい。 |
| 最終製品の規格として要求されるバイオバーデン検査を未実施の最終製品ロットが、商品流通用に出荷された。 | 必須試験実施前の製品流通 | |
| より大きなバッチサイズにスケールアップするためのバリデーション報告書が完成する前に、最終製品ロットが誤って市場に出荷されたことが判明した。 | プロセスバリデーション前の製品流通 | |
| いくつかの製品の出荷追跡によって、輸送中の原料が誤った製造施設で発見されるまでの15日間、輸送中に原料が紛失したことが明らかとなった。影響調査は保留されている。 | 製造製品出荷の問題 | |
| 出荷されたロットは、企業サイトでラベルに記載された保管方法以外の温度に曝される可能性があった。 | 製品温度逸脱の問題 | 選択されたLLT- PT「製品温度逸脱の問題」は、HLGT「製品品質、供給、流通、製造および品質システムの問題」にリンクしており、製造および供給段階における保管温度の問題に特異的である。もう一つの用語、LLT「製品温度逸脱過誤」- PT「製品保管過誤」は、HLGT「投薬過誤、その他の製品使用過誤および問題」にリンクしており、投薬使用プロセスにおける保管温度過誤に特異的である。 |
| 製品流通履歴の審査において、在庫管理システムに入力された2年の有効期限を超えた1ロットが流通したことが判明した。 | 製品流通時の問題
製品使用期限の問題 | |
| 通関手続き待ちの製品のために出荷が遅れた。 | 製品出荷遅延 |