MedDRA 考慮事項:
コンパニオンドキュメント

第1章 はじめに
第2章 データの質
2.1 データ品質の重要性
2.2 高品質のデータの特性
2.3 データ品質の戦略におけるMedDRA の役割
2.4 組織としてのデータ品質戦略を構成する要素
2.4.1 データ収集
2.4.2 MedDRAコーディング:考慮事項
2.4.3 研修
2.4.4 品質保証の確認
2.4.5 MedDRAバージョン管理の戦略
第3章 投薬過誤
3.1 投薬過誤の用語選択 – 質問と回答
3.1.1 LLT「投薬過誤(Medication error)」の使用
3.1.2 複数の用語選択
3.1.3 投薬過誤vs.適応外使用
3.1.4 潜在的な投薬過誤
3.1.5 最も具体的な用語の選択
3.1.6 MedDRAにおける投薬過誤に関する概念の記述
3.1.7 薬物使用システムの段階
3.1.8 根本原因の用語のコーディング
3.1.9 投薬過誤を推測しない
3.1.10 医療機器使用法過誤 vs. 医療機器の不良
3.2 投薬過誤の用語選択事例
3.2.1 偶発的製品曝露
3.2.2 その他の投薬過誤および問題
3.2.3 製品使用過誤および問題
3.2.4 製品の混同に関する過誤および問題
3.2.5 調剤過誤および問題
3.2.6モニタリング過誤および問題
3.2.7 製品調製過誤および問題
3.2.8 製品処方過誤および問題
3.2.9 製品選択過誤および問題
3.2.10 製品保管の過誤および問題
3.2.11 製品の処方転写過誤およびコミュニュケーションの問題




 

MedDRA® 考慮事項:

コンパニオンドキュメント

ICH活動で作成されたMedDRAユーザー
のためのガイド

公表版1.0

 

 

 

2018年6月


免責および著作権に関する事項

本文書は著作権によって保護されており、如何なる場合であっても文書中にICHが版権を有することを明記することによって公有使用を許諾するものであり、複製、他文書での引用、改作、変更、翻訳または配布することができる(MedDRAおよびICHのロゴは除く)。本文書を多少とも改作、変更あるいは翻訳する場合には、原文書の変更あるいは原文書に基づくものであると、明確に表示、区分あるいは他の方法で識別できる合理的な手順を踏まえなければならない。原文書の改作、変更あるいは翻訳がICHによって推奨あるいは支持されるものであるという印象は如何なるものであっても避けなければならない。

本文書資料は現状のまま提供され、一切の保証を伴わない。ICHおよび原文書著者は、本文書を使用することによって生じる如何なる苦情、損害またはその他の法的責任を負うものではない。
上記の使用許可は、第三者組織によって提供される情報には適用されない。したがって、第三者組織に著作権が帰属する文書を複製するには、その著作権者から承諾を得なければならない。なお、MedDRA®の登録商標はICHの代理としてIFPMAが登録した。

本資料の日本語版は、ICHのPtC-WGの国内メンバーの協力を得て、JMO事業部が翻訳したものである

 


第1章 はじめに
MedDRA®用語選択:考慮事項およびMedDRA®データ検索および提示:考慮事項は、すべてのMedDRAユーザーにとって有用なガイダンスであり、一般的な用語選択やデータ検索の原則はもちろん、用語選択や分析に取り組むにあたっての明確な例示を提供している。しかし、トピックによっては、既に発行されている考慮事項の文書で網羅されている内容よりさらに詳細な情報が、MedDRAを使うにあたってユーザーの助けとなる場合がある。
このコンパニオンドキュメントの目的は、グローバル規制上重要でMedDRAに関連する特別なトピックにより詳細な情報、例示およびガイダンスを提供することによって考慮事項(PtC)の文書を補完することである。これはICHの管理委員会(MC)の指示により設けられたPtC文書を作成・維持管理するワーキンググループによって作成・維持管理される。このワーキンググループは、ICHに加盟の規制当局と業界団体、WHO、MSSO、JMOの代表で構成されている。
このドキュメントは随時更新されるリビングドキュメントであり、PtC文書の1年2回の改訂に連動するよりは、むしろユーザーの要望を基に改訂が行なわれる。このコンパニオンドキュメントはPtC文書と同様に、英語と日本語で入手できる。しかし、適切でない例示や日本語訳が困難な例示があれば、それらは日本語版には含まれない。
このドキュメントの内容は全てのICH加盟組織により合意され、規制上の要件を明記するものではなく、データベース関連事項を取り上げるものでもない。各組織は、各自の用語選択やデータ検索について、PtC文書およびこのコンパニオンドキュメントと整合性が取れている組織独自のガイダンス中に詳細に記載することが奨励される。
MSSOユーザーはMedDRA考慮事項コンパニオンドキュメントについての質問やコメントはMSSOヘルプデスクに問合せされたい。

JMO注):本文書に関するJMOユーザーの質問やコメントは、JMO Website(https://www.pmrj.jp/jmo)のヘルプデスクに問い合わせされたい。


第2章 データの質
本章では、臨床試験および市販後の両環境下におけるMedDRA使用に関連した重要なデータ品質やデータ入力の原則について論議する。規制上の要件、データベース構成上の問題、ファイル形式の慣例、データの業務フロー・アプリケーションやMedDRAの範疇を越える他のトピックについては言及しない。
ヒトに用いられる医療用製品の開発および市販後の両段階において、データ収集は必須かつ継続するプロセスである。MedDRA ®用語選択:考慮事項(以下、MTS:PTC)文書に記述されているように、報告されたオリジナル情報の質は出力されるデータの質に直接影響を及ぼす。

高品質データの
入力
高品質データの
出力

データは、医薬・医療用製品(biopharmaceutical products)の安全性・有効性に関する推測、仮説の検証、結論付け、陳述や知見を報告することに用いられる。データは、用語選択(コーディング)から情報の分類、検索、分析および提示までの範囲の活動に用いられることから、高品質データの入手を可能とすることが最も重要である。高品質のデータは、シグナル検出、データ解析や製品表示の作成・維持管理を含む製品の安全性面をサポートする。本章では、組織的なデータ品質の戦略の一端となるいくつかの手法とプロセスについて記述する。


2.1 データ品質の重要性
規制対象の製薬業界(regulated biopharmaceutical industry)が、安全性報告関連規制とその標準化について更なる調和を追及する中で、安全性調査およびデータの質をますます重要視している。患者/被験者の安全性の支援に加え、データの質が向上することよって、臨床研究および市販後の業務プロセスに関わるもの(規制機関、スポンサー企業、研究施設職員および医薬品販売承認取得者を含む)に対する完全かつ正確な情報伝達を促進できる。高品質データの収集により、結果的に製品開発期間および市販後における時間効率と費用対効果の更なる向上をもたらす(例.不完全なデータに対する問い合わせの減少、施設モニタリング経費の削減、製造販売承認取得遅延のリスク低減)。 有害事象データの質は、臨床試験における安全性モニタリング、製造販売承認申請時のリスクアセスメントや市販後データにおける安全性シグナル評価の中心となる。通常、有害事象は、臨床試験の被験者や患者もしく患者の介護者が訴えた病状より得られる。これらの報告用語(verbatim term)は、手動またはオートエンコーダによって自動的にMedDRA 下層語(LLT)が用語選択される。利用者は、むしろ特異的でないLLTがあり、報告情報を更に具体的に明確化する必要があることを認識するべきである。用語選択における小さなずれが、深刻な問題をもたらし、誤った解析結果につながりかねない。用語選択は、一見単純な症例であっても、実は様々な選択となり得る。この多様性を考慮すると、有害事象データを慎重に評価することは、特定の推奨事項やガイダンスに依存することよりも重要である。

2.2 高品質のデータの特性
高品質のデータにはいくつかの共通点がある。まず、これらのデータは、完全かつ正確でなければならない。可能な限り常に、完全性と正確性を犠牲にすることなく、最も簡潔な形態のデータが収集され、供給されるべきである。組織において、データの質は、網羅性、一貫性、透明性、データ処理プロセスの文書化によって培われる。高品質のデータは、当然ながら、入手可能な情報で支えられている。例えば、臨床診断は、得られた病歴、身体所見、臨床検査結果と一致すべきである。さらに、適切な場合には、高品質のデータはデータに関する関連付けをサポートできる(例.製品との関連ありと判定された有害事象の因果関係評価)。

2.3 データ品質の戦略におけるMedDRA の役割
臨床開発および市販後安全性監視の両方において使用される、標準的で検証された臨床用語集として、MedDRA はデータ品質の堅実な戦略上、重要な役割を果たすべきである。MedDRA はデータ入力のプロセスにおいて、情報記号(「コード」)として使用されることから、最も特異的かつ分析の質が高くなる用語選択を行うために、MTS:PTC 文書中の原則を考慮することが重要である。用語選択に使用可能な多数のLLTによって、高い粒度がもたらされているが、このMedDRAの粒度をもってしても、低品質(“low quality”)な一次情報を克服することはできない。

2.4 組織としてのデータ品質戦略を構成する要素
組織としてデータ品質戦略を策定し実施するには、多数の利害関係者からの意見収集、支援および協力を必要とする複雑な業務が発生する。高品質のデータの収集に関する数多くの原則は、臨床試験および市販後監視の両面においても同様である。本項では、高品質のデータを入手するための枠組みについて言及する。

2.4.1 データ収集
臨床試験、市販後安全性業務のコールセンター、診療所のいずれにおいても、完全かつ正確な情報を入手する機会は1回限りであることが多い。出力されるデータの質はデータベースに入力されるデータの質によって決定されることから、これらの初動段階が重要な影響を及ぼす。これらの収集された情報(例.臨床試験実施施設の医師・看護師、市販後のコールセンター従業員、調剤薬剤師および救急医)においては、以下の方法が収集データの質の最大化に役立つ。

  データ収集プロセスにおいて、重要でない情報を収集するリスクに備えてデータの完全性と正確性を重要視する必要がある。これは特に時間の制約がある場合に当てはまる。有害事象のような重要な概念を格納する専用のデータフィールド中には重要でない情報の量を減少させることが望ましい。さもなければ、データコーディングとデータ管理がさらに複雑化する。

  臨床試験においては、報告者が類似の医学概念を記述するために一貫性がある医学用語集の使用を促進すべきである。このような状況を確保するための最もよい方法の一つは、データ収集の一貫性の重要性について試験施設職員(とくに臨床試験責任者)に対して入念に説明をすることである。

  臨床試験におけるデータ収集手段(電子的あるいは紙の症例報告書のいずれであっても)は、必要な情報の全てを入手するために、使いやすく、永久的、かつ十分に包括的であるように注意深くデザインすべきである。個々の臨床試験もしくは臨床研究は何年にも及ぶことから、高品質のデータ収集ツールを開発するために多くの時間を費やすことは全く不可能である。データ管理、情報技術、統計学、品質保証や法規制遵守におけるそれぞれの適切な専門家を、計画の各段階を通して参画させるべきである。開発段階に入って数年も経過すると、適切に収集されなかった必要なデータを補うことは不可能でないにしても困難である。

  時間が経つにつれて、不完全な情報を明確にするための追加情報入手の可能性は低下し、報告者の重要な事象についての記憶が劇的に変更されることがある。それ故、情報源から明確な情報を入手するクエリー(“query”)プロセスをできる限り速やかに開始することが極めて重要である。

   報告に複数の診断が含まれている場合(例.「指骨折と手の擦過傷」や「膀胱閉塞と膀胱炎」のような報告)、これらは概念を分割してデータ収集様式に記録することが通常、適切である。

   スペルミスおよび略語と頭字語の使用については最小限に抑えるべきである。以下の表に、不十分もしくは曖昧なデータなど、解釈に困難を伴う例を示す。

報告語 データ品質上の問題
MIを起こした(Had MI) MI は心筋梗塞(myocardial infarction)、僧帽弁不全(mitral insufficiency)、精神疾患(mental illness)あるいは腸間膜虚血(mesenteric ischaemia)を表しているのか不明
Interperial「Interperial」は「腹腔内(“intraperitoneal”)」 または「会陰内(“intraperineal”)」を意味しているのか不明
ニトロ点滴(Nitro drip)Nitro dripはニトログリセリンまたはニトロプルシドの点滴静注か不明

   さらに、正確な前後関係の文脈がない場合、以下の表に記述されている曖昧(“vague”)な用語を解釈することは不可能である。

報告語 データ品質上の問題
うっ血(Congestion) 鼻閉、肝臓うっ滞あるいは静脈うっ滞などのどれか不明
閉塞(Obstruction)閉塞部位は気管支、腸、尿道などのどれか不明
梗塞(Infarction)心筋梗塞、脳梗塞あるいは網膜梗塞などのどれか不明

このような用語の明確化は情報収集時に依頼すべきである。もし、明確化が得られない場合、報告された情報に対する適切な質問がされたことを明らかにするため、「不明(“unknown”)」や「詳細不明(“unspecified”)」のような用語追加が有用なこともある。


 2.4.2 MedDRAコーディング:考慮事項
MedDRA は、報告されたあらゆるタイプの情報を正確にコーディングすることに用いることができる。それは、副作用・有害事象を示す診断、徴候、症状だけでなく、病歴、社会歴、製品使用の適応(症)、医療機器に関連した事象、外科および内科処置、臨床検査、曝露、誤用と乱用、適応外使用、投薬過誤および製品品質の問題のような概念を含む。意味のあるデータレビューのために、すべての必要な情報について一貫性のあるコーディングを確実に行うことは重要である。考慮すべき重要なデータの質の問題には以下が含まれる。

 ●   MedDRA コーディングに責任を有する者は、専門用語に精通し、かつそれを効果的に利用するために必要なトレーニングを受講するなどの手段を確保しておくべきである。MTS:PTC(MedDRA用語選択:考慮事項) 文書に述べられているコーディングの原則には、とくに注意を払うべきである。多数の者がMedDRA でのコーディングを実施する環境下においては、組織として一貫性を持たせることが重要である。

 ●   適切に訓練された者がMedDRA でのコーディングの結果をレビューすべきである。

 ●   報告されたすべての有害事象および副作用は、因果関係の有無に関係なくコーディングすることが重要な理念である。同様に、徴候・症状のみが報告された場合、診断を表す用語を選択することによって情報を追加してはならない(MTS:PTC 2.10参照)。

 ●   報告された情報を適切にコーディングすることは重要である。報告用語よりも特異性が低い用語や重症でない用語を選択することは不適切である(例.「痙攣発作」に対するLLT「身震い」、「腹膜炎」に対するLLT「腹痛」の選択)。

 ●   MTS:PTC 文書では、とくに徴候・症状を伴う暫定および確定診断に関連する問題については、「好ましい(“preferred”)用語のコーディング」に従うことが推奨されている。MTS:PTC文書に基づき、「代替(alternate)の用語のコーディング」を用いた場合、代替コーディングの選択に一貫性をもたせるために、それを選択した理由を記録することが適切である。

 ●   臨床検査室および検査の用語(SOC「臨床検査」に含まれる)と医学的状態(主に主要発現部位のSOCに含まれる)を区別することは重要である。

 ●   報告者が使用した用語は一つ以上の医学的概念(例.「転倒と挫傷」)を含んでいるかもしれない。各々の報告事象と適切なコードを考慮することが重要である。

 ●   すべての概念を表現する、単一のLLTがMedDRA用語に含まれていない場合、二つ以上の用語のコーディング(“split coding”)を行うこと考慮すべきである(MTS:PTC 2.8 および3.5.4参照)。

 ●   組織によっては、報告用語を事前に決めたLLTにコーディングできるように「報告用語のシノニム(“synonym”)リスト」の作成することができる。組織内シノニムリストの例を以下に示す。

報告語 選択されたLLT
こめかみの上のズキズキ(Throbbing above temple)
頭全体の痛み(Aching all over head)
頭部の拍動性の痛み(Pulsing pain in head)
組織内シノニムリストによって、これらの報告語はLLT「頭痛」を用いて用語選択してもよいとされることがある。

JMO注):用語の追加変更要請についても考慮すること。
シノニムリストは、ある状況下(例.報告書のコーディングに関わる者が、医学専門家に限られている場合、地域的に離れたいくつかの施設でコーディングする場合、オートエンコーダが広く用いられている場合)では、とりわけ有用かもしれない。また、シノニムとして選択された用語が、コードされる医学的概念に対して、真のシノニムであることを担保することが重要である。

 ●   内科的/外科的処置は、一般的には有害事象ではない。しかしながら、処置のみが報告された場合は、処置に対する適切な用語をコードする(MTS:PTC 3.13.1参照)。一方、処置が診断と組み合わされて報告された場合には、好ましい選択肢は処置と診断の双方の用語を選択することである。また、診断を示す用語のみ選択することも可能である(MTS:PTC 3.13.2参照)。組織によっては、有害事象と処置を別々のデータフィールドに分けたデータ収集フォームを有しており、これはデータを適切なカテゴリーに入力するのに役立つ。

 ●   死亡、障害、入院などは安全性報告の関連では転帰と考えられ、有害事象とはみなされない。従って、通常、転帰はMedDRA 用語ではコーディングされない。それらは、代わりに転帰に対する適切なデータフィールドに記録される。この推奨の例外の一つは、唯一報告された情報が、死亡、障害、または入院の場合である。これらの概念は、その原因の明確化に努める間、MedDRA用語でコーディングする(更なる情報はMTS:PTC 3.2参照)。それに加え、重要な臨床情報を含んでいる死亡に関する用語(例.LLT「てんかんにおける原因不明の突然死」、LLT「胎児死亡」)は報告された副作用/有害事象(AR/AE)とともに選択すべきである。

 ●   入手した情報が曖昧、不明瞭あるいは矛盾している場合、より明確な情報の入手を試みている間、以下の例に示すMedDRA 用語をコードできる。

曖昧な情報MTS:PTC 3.4.3参照

報 告 語 選択されたLLT コメント
Appeared red評価不能の事象
(Unevaluable event)
「Appeared red」との報告のみでは曖昧である。患者の外観か製品(例えば錠剤、溶液など)の外観かさえも判別できない。

不明瞭な情報MTS:PTC 3.4.2参照

報 告 語 選択されたLLT コメント
患者は ARの病歴があった不明確な障害
(Ill-defined disorder)
どのような医学的状態(大動脈弁逆流症(aortic regurgitation)、動脈再狭窄(arterial restenosis)、アレルギー性鼻炎(allergic rhinitis))が患者にあったのかが不明なのでLLT「不明確な障害」を選択する。

矛盾する情報MTS:PTC 3.4.1参照

報 告 語 選択されたLLT コメント
ヘモグロビン19.1g/dLを伴う重度の貧血ヘモグロビン異常
(Hemoglobin abnormal)
LLT「ヘモグロビン異常」は、報告された両方の概念を示す。(注: ヘモグロビン値 19.2 g/dLは高値であり、重度の貧血でみられる低値ではない)

2.4.3 研修
適切で継続性のある研修は高品質のデータ戦略の鍵を握る部分である。研修は、情報の収集、転記、分類、入力、用語選択およびレビューに関与するすべての関係者に対して実施すべきである。組織的な研修の実施方法や手順は、文書化して記録すべきであり、必要な更新を行うために継続的にレビューを行うべきである。研修は、これらの標準手順に精通し、基準の順守に注意を払うことに知識を有する適任者によって適切に実施すべきである。主要な職務のクロス・トレーニングは、取り組みの一貫性を確保し、予測できない人事異動の期間中においてもデータの品質を維持するためにも望ましい。
臨床試験の実施が不慣れな施設や、遠隔地にある施設を使用することがある組織の場合、臨床試験実施施設の担当者[例.臨床試験担当医、看護師、臨床試験コーディネーター(CRC)、臨床開発モニター(CRA)、薬剤師]に対して、試験実施に必要なすべての側面における十分な研修を確保することも重要である。研修例を以下に示す。

 ●   適用されるデータ収集手段の正しい使用方法

 ●   臨床試験被験者・患者への問診における適切な手法の研修[例.間接質問、徴候・症状の羅列よりも診断された有害事象報告(可能であれば)、あるいは盲検解除を回避するための注意事項]

 ●   高品質なデータ収集に関連した規制事項の知識

 ●   用語選択の目的でのMedDRA使用に必要な知識(該当する場合)。用語選択における確定診断 対 暫定診断(症状を伴う場合と伴わない場合がある)や診断の推論をしないことはとくに重要である。

 ●   情報を明確化するため、組織体が承認したデータクエリー(“data query”)プロセスに対する十分な理解と遵守

その他の有用な資料としては、MedDRA ウェブサイト“Training Materials”ページ(https://www.meddra.org/training-materials)の‘General/Basics’の項から参照できる“Data Quality、Coding and MedDRA”がある。このカスタマイズ可能なスライドセットは、臨床試験医師向け説明会やデータ収集に関与する部門(CRAやCRCなど)に対する研修に使用することを意図している。MedDRA が関与している高品質のデータの重要性と有益性についての概要が示されている。

2.4.4 品質保証の確認
よく考えられた徹底した品質保証(QA)プロセスは、データ品質に関する目標達成を可能にする。データマネジメントプロセスでのQA チェックは、確立した組織的な手順と指標に関するコンプライアンスを担保する。QAチェックによって確認されたMedDRA 用語の不適切な選択例を以下に示す。

報 告 語 不適切なLLT選択 QAレビューの結果
CAT スキャンアレルギー
(Allergic to CAT scan)
ネコアレルギー
(Allergic to cats)
この不適切なLLT 選択は、報告語の「Allergic to CAT scan」と一致したオートエンコーダによる用語選択を反映したものである。
眼に圧迫を感じた
(Feels pressure in eye)
眼圧
(Intraocular pressure)
この不適切な LLTは眼圧のための検査用語である。報告で述べられた症状を反映する適切な用語はLLT「眼圧迫感(Sensation of pressure in eye)」である。

これらのチェックにより、データベースが固定され、誤ったデータがデータ解析に利用される前にMedDRA 用語の選択間違いを確認できる。
MSSO がメンテナンスしている「修飾語が付いていない検査項目名リスト(Unqualified Test Name Term List)」はSOC「臨床検査」にあるPT及びLLTレベルでの修飾語が付いていない検査項目名を包括的に収集したリストである。修飾語が付いていない検査項目名リスト*はMedDRAウェブサイトの“Support Documentation”のページでみつけることができる。臨床試験や市販後のデータベースにおけるQAチェックとして規制当局や産業界で利用することができる。修飾語が付いていない検査項目名(例.LLT「血中ブドウ糖」、LLT「CATスキャン」)はAR/AE を表していないが、データベースにおける特定のデータフィールドにおいて価値をもつことを意図している。例えば、ICH E2B個別症例安全性報告を伝送するためのデータ項目「患者の診断に関連する検査及び処置の結果」の欄に、修飾語が付いていない検査項目名を検査項目名のデータ要素として記録することに用いられる。修飾語が付いていない検査項目名は、AR/AEなどの情報を記録する他のデータフィールドにおける利用を意図したものではない。「修飾語が付いていない検査項目名リスト」は、用語選択の質をチェックする標準ツールとしての推奨のみを意図している。

* JMO注):修飾語が付いていない検査項目名リスト(英語・日本語版)は、JMO Website(https://www.pmrj.jp/jmo)“JMO提供サービス”の項目より入手可能である。


2.4.5 MedDRAバージョン管理の戦略
年2回のMedDRA 新バージョンの改訂に合わせ、MedDRA を利用しているそれぞれの組織は改訂に対処するための新バージョン管理の戦略を文書化すべきである。MSSO は下記の表題の資料を含むBest Practiceとして文書化している。

* 臨床試験におけるMedDRA の実装とバージョン管理に関する推奨事項

* 個別症例報告のための半年毎のバージョン管理に関する 推奨事項

このBest Practice文書はMedDRA ウェブサイト > “Support Documentation”(https://www.meddra.org/how-to-use/support-documentation)から参照できる。

MSSO では、任意の二つのMedDRA バージョン間(連続しないものにも対応)での変更の影響を特定し理解することを支援するツールとしてVersion Analysis Tool(MVAT)* も提供している(MTS:PTC 付録4.2参照)。

* JMO注):JMOユーザーの場合、Version Analysis Tool(MVAT)の利用は、JMO Website(https://www.pmrj.jp/jmo)“オンラインツール”のページよりアクセス可能である。


第3章 投薬過誤
この章の目的は、MedDRA®用語選択:考慮事項(以下、MTS:PTC)の投薬過誤の項をより発展させることであり、投薬過誤と考えられるシナリオ*、あるいは投薬過誤とは考えられないシナリオについてのガイドを提供している。さらに、これらのシナリオに基づいた用語選択のガイドと例示を提供している。この文書は二つのパートからなり、初めのパートでは投薬過誤の用語選択について、「よくある質問(FAQ)」へ回答し、二つ目のパートでは投薬過誤の用語選択について例示を提供する。なお、例示の用語はバージョン21.0に基づく。
本文書はリビングドキュメントであり、内容はユーザーからのフィードバックに基づき改訂が行われる。MSSOユーザーはMedDRA考慮事項コンパニオンドキュメントについての質問やコメントはMSSOヘルプデスク**に問合せされたい。

* JMO注):ここで示す「シナリオ」は、英語原文のscenarioをそのまま訳出したもので、報告者から報告された概要・筋書きを意味している。なお、シナリオが示す例示は、MTS:PTCと同様、すべての地域の規制状況あるいは実情を反映したものではないかもしれない。また、本文書は、各規制当局への報告の必要条件やデータベース関連事項を解説することを目的としたものではない。

** JMO注):本文書に関するJMOユーザーの質問やコメントは、JMO Website(https://www.pmrj.jp/jmo)のヘルプデスクに問い合わせされたい。

謝辞
PtC-WGは、本文書の本章に対して多大な貢献を果たした下記の方々に深謝致します。
Georgia Paraskevakos, Patient Safety Specialist, Health Canada
Jo Wyeth, Postmarket Safety Program Lead, FDA CDER, OSE, Division of Medication Error Prevention and Analysis (DMEPA)

背景
用語選択の目的で、投薬過誤を表す用語はHLGT「投薬過誤、その他の製品使用過誤および問題(Medication errors and other product use errors and issues)」(バージョン20.1以降)にグループ化されている。しかし、他のMedDRA階層に配置された用語も、投薬過誤が記述されている症例の用語選択に使用できる。そこで、広く分散している用語による検索を支援するために、狭域および広域検索によって投薬過誤が疑われる症例を包括的に検索するための標準的なツールとして、MedDRA® 標準検索式「投薬過誤(SMQ)*」が開発された。

* JMO注):MedDRA®標準検索式(SMQ)手引書(バージョン21.0)の2.6.1「投薬過誤(SMQ)」(2018年3月正式リリース)も参照されたい。また、MedDRA®用語選択:考慮事項3.15.1「投薬過誤」も参照すること。

HLGT「投薬過誤、その他の製品使用過誤および問題(Medication errors and other product use errors and issues)」は次のような多くのPTから成っている

 ●   過誤のタイプを示す用語 [例.PT「誤った薬剤」(Wrong drug)]
 ●   薬物使用システムのある段階で起こる過誤のタイプを組み合わせた用語[例.PT「処方過誤」(Drug prescribing error)]
 ●   過誤の潜在的可能性(potential for error)の記述
 ●   回避され、患者に到達しなかった過誤(Intercepted error)
 ●   報告されたインシデントが過誤かどうか不確かな用語

それぞれのPTは、偶発的曝露、薬物使用システム*の各段階、製品混同を表すHLT、もしくは他に分類されない様々な他のPTを集めたHLTで分類される。

* この文書においては、薬物使用システム(medication use system)とは、その一連の作業の間に投薬過誤が起こる可能性がある各作業の各段階を表しており、調達、保管、処方、処方転写、選択、調整、調剤、投与およびモニタリングが含まれる。ただし製造者による流通や保管を含む製造工程全体に関連する作業は、この薬物使用システムからは除外される。


3.1 投薬過誤の用語選択 – 質問と回答
本項では、投薬過誤の用語選択についてよくある質問(FAQ)について回答する。

3.1.1 LLT「投薬過誤(Medication error)」の使用

LLT「投薬過誤(Medication error)」は、どのような場合に使用が認められるか?
その過誤に対して適切なMedDRA用語がない場合、投薬過誤を使うことはできるか?

 ●   LLT「投薬過誤(Medication error)」は、投薬過誤についてそれ以外の情報がない場合を除いては、使用を避けるべきである。

 ●   HLGT「投薬過誤、その他の製品使用過誤および問題(Medication errors and other product use errors and issues)」の下位にある全てのLLTを確認し、最も具体的と考えられる用語を選択する。

 ●   具体的な過誤が報告されたにも関わらず、使用できる適切なLLTがない場合には、用語の追加変更要請の手順を守るべきである(MedDRAウェブサイト Change Requests* 参照)。その間は、使用できる用語中から報告された過誤に最も近い用語を選択すべきである。LLT「投薬過誤(Medication error)」が最も近い意味として選択される事例は稀と考えられる。

 * JMO注):JMOユーザーは、JMO Website(https://www.pmrj.jp/jmo)の追加変更要請ページから要請ください。

3.1.2 複数の用語選択

同じインシデントに対して報告された全ての過誤を用語選択すべきか?

発生源としての過誤(最初の過誤としても認識されているもの)が、結果として続発する過誤を引き起こす場合がある。例えば、「誤った薬剤(wrong drug)による処方過誤(prescribing error)に、結果として誤った薬剤の調剤や誤薬投与が続発した」と報告されている。

 ●   発生源としての過誤を優先して用語選択すべきである。追加または結果として続発する過誤は、それらが報告の中に記載されている場合には用語選択してよい。上記の例では、LLT「誤った薬剤の処方(Wrong drug prescribed)」を優先して用語選択し、LLT「誤った薬剤の調剤(Wrong drug dispensed)」およびLLT「誤薬投与(Wrong drug administered)」を結果として続発する過誤に対する用語として追加することができる。

 ●   同じ過誤に対する重複した用語選択は避けること。つまり、一つの過誤が一般的な用語と具体的な用語で報告されていた場合、複数のLLTを使用せずに具体的な過誤のみを用語選択すべきである。例えば、もし誤薬が投与された投与過誤があったことが報告された場合、具体的な過誤を表すLLT「誤薬投与(Wrong drug administered)」のみを選択すべきである。一般的な記述であるLLT「薬剤誤投与(Drug administration error)」は、意味のある追加情報を提供しない(これら二つのLLT が異なったPTにリンクしているにしても)ため、選択しないこと。

 ●   組織によっては、LLTレベルで集計する方式のデータベースを有しており、それ故、同じPT下に配置された二つのLLTがこの方式で用いられた場合にはシグナル検出に影響を及ぼすかもしれないことを念頭に置くべきである。

3.1.3 投薬過誤vs.適応外使用

「処方者が、ラベル表示よりもはるかに高い用量を指示した。」との報告があり、その処方が過誤によるものか適応外使用であるかの言及がない場合、鑑別診断と同様に、両方の可能性について用語選択すべきか?

 ●   どちらとも言及されておらず、両方とも可能性がある場合、一つの事象に対して過誤を表す用語と適応外使用を表す用語でダブルコーディングしてはならない(この手法は有益ではない)。

 ●   状況が不明瞭である場合、その明確化に務めるべきである。それでも不明な場合は報告にないものを推察せず、報告内容に最も当てはまる用語を選択すべきである。例えば、「薬剤Xがラベル表示よりもはるかに高い用量で処方された」という報告のみがあり、それが過誤か適応外使用であるかの情報がない場合、LLT「処方に基づく過量投与(Prescribed overdose)[HLT「過量投与NEC(Overdoses NEC)」]」を選択する。

 ●   適応外使用は、それが明記された場合のみ用語選択すべきである。

3.1.4 潜在的な投薬過誤

過誤の潜在的な可能性を記載した報告について、その用語選択はどのように行えばよいか?
例)「二つの医薬品のラベル表示が似ているため、誰かが取り違える可能性がある。」と記載された報告:

 ●   潜在的な過誤は、LLT「投薬過誤につながる状況または情報(Circumstance or information capable of leading to medication error)」やLLT「医療機器使用過誤につながる状況または情報(Circumstance or information capable of leading to device use error)」などの用語選択によって示すべきである。

 ●   さらに、潜在的に発生するかもしれない過誤についての情報を表現できる用語を選択する。上記の例では、次の三つの用語を選択する。

 o   潜在的な過誤に対する用語(LLT「投薬過誤につながる状況または情報(Circumstance or information capable of leading to medication error)」)
 o   原因となる状況を表す用語(LLT「似た薬剤表示(Drug label look-alike)」)
 o   起こりえる過誤のタイプを示す用語(LLT「誤った薬剤(Wrong drug)」)

3.1.5 最も具体的な用語の選択

他の用語と重複する概念を持つ用語は、どのように使用すればよいか?

例)「患者が自身に投与する前に製品を適切な時間をかけて再調製しなかった」と記載された報告:

 ●   報告された情報に対して、適用できる最も具体的なLLTを選択すべきである。上記の例では、LLT「不適切な再調製技法(Inappropriate reconstitution technique)[PT「製品調製過誤(Product preparation error)」]」を選択する。その理由は、この用語がLLT「製品使用過程における誤った技法(Wrong technique in product usage process)[PT「製品使用過程における誤った技法(Wrong technique in product usage process)」]」よりも具体的であるためである。一つの過誤を二つの過誤の用語で用語選択することは、それが意味のある追加情報を提供する(すなわち、一つのLLTでは報告されたシナリオの全体像を表現できない)場合に限って有用である。

3.1.6 MedDRAにおける投薬過誤に関する概念の記述

投薬過誤に関するMedDRA用語概念の記述には、乱用、誤用、あるいは適応外使用が含まれているのか?

MedDRAにおける投薬過誤の用語概念の記述*は以下の通り:
投薬過誤とは、薬剤が医療関係者、患者自身、或いは消費者の管理の下にある場合で、患者にとって有害なこと、または不適切な薬剤使用を引き起こす可能性がある全ての回避可能な事象を指す。
それらは、処方管理(order communication)、製品の表示(product labeling)、包装および単位・略号・記号/名称、配合、調剤、流通、管理、教育、モニタリングおよび使用などを含む、専門家による行為、製品そのもの、および全体としてのシステムに関係する可能性がある。
参照:「薬物乱用防止および予防に関する国家調整委員会(米国)」(NCC MERP:National Coordinating Council for Medication Error Reporting and Prevention)のウェブサイト( https://www.nccmerp.org/about-medication-errors )から引用(2017年12月1日アクセス)

 * JMO注):MedDRA®手引書の付表B 用語概念の記述(例.投薬過誤、投薬モニタリング過誤、処方過誤、製品剤形の混同、製品表示の混同、製品名称の混同、製品包装の混同)も参照されたい。また、MTS:PTC 3.16「誤用、乱用および嗜癖」3.27「適応外使用」も参照すること。

 ●   一般的な原則として企図的な使用、つまり乱用、企図的誤用、適応外使用や企図的な過量投与などは投薬過誤ではない。しかし、そのシナリオが過誤か否かは、背景や原因に依存する可能性がある。以下に例を示す。

 o   もし製品の混同(confusion)が、製品の誤った使用や誤用(misuse)の原因または結果である場合(例.医療機器が紛らわしく、十分量を確実に投薬するために追加投与した)、通常、これは過誤とみなされ、企図的な誤用(intentional misuse)とは考えない。

 o   医薬品副作用の発現が、患者が治療を中止する原因である場合、通常これは治療中断として分類され、企図的な誤用や過誤とは考えない

 o   患者が、自己判断で服薬回数を処方よりも少なくした場合、通常これは企図的な誤用とみなされ、投薬過誤ではない。

 ●   薬物乱用(drug abuse)や、薬物がどのように乱用されたか(投与経路、調製)の詳細が述べられている場合は、投薬過誤とはみなさない。

 ●   本人が関与できない製品品質や製品供給の問題などの状況も、通常は投薬過誤には分類されないが、結果として投薬過誤に繋がることもある。例えば、医療機器機能不良(device malfunction)または包装の欠陥(製品品質の問題)が、結果として誤用量投与(incorrect dose administered)に繋がることがある。


3.1.7 薬物使用システムの段階

薬物使用システムの段階が示されていない投薬過誤の用語は、どのような場合に使うのが適切か?

MedDRA 用語には、過誤のタイプと薬物使用システムの段階の両方を示すものや(例.LLT「誤った薬剤の処方(Wrong drug prescribed)」)、過誤のタイプのみ(例.LLT「誤った薬剤(Wrong drug)」)や薬物使用システムの段階のみ(例.LLT「処方過誤(Drug prescribing error)」)を示すものがある。

 ●   一つのLLTを選択

例)「薬局が誤った薬剤を調剤した。」と記載された報告:
薬物使用システムの段階と過誤のタイプの双方をハイライトすることは、そのことが知られていれば重要である。上記の例では、二つのLLT(「誤った薬剤(Wrong drug)」および「誤った薬剤の調剤(Wrong drug dispensed)」)の併用でなく、一つのLLT「誤った薬剤の調剤(Wrong drug dispensed)」のみを使用してよい。

 ●   複数のLLTを選択

例)「誤った含量投与」と記載された報告:
報告された情報を完全に表現できる単一の用語がないことから、二つのLLT(「誤った含量(Wrong strength)」および「薬剤誤投与(Drug administration error)」)を用語選択すべきである。
薬物使用システムの段階が不明な場合は、過誤のタイプのみを示す用語(例.LLT「誤った薬剤(Wrong drug)」、LLT「誤った計画(Wrong schedule)」、LLT「誤った含量(Wrong strength)」など)がある。


3.1.8 根本原因の用語のコーディング

当該症例報告に根本原因の記述がある場合、その原因をコーディングすることを推奨しますか?

根本原因はなぜ過誤が発生したのかを理解し、その過誤を防止できる処置の特定に重要であるため、根本原因が提供された場合は可能な限り、根本原因を示す用語をコーディングすべきである。

 ●   例えば、製品品質の問題は投薬過誤を引き起こすかもしれない。その場合、製品品質の問題が過誤の根本原因である。その品質の問題と過誤の両方を用語選択すべきである。

 ●   より広い患者の安全という考え方は、根本原因がMedDRAでは表現できない可能性があるが、そうであれば、それらは自由記載欄(例.記述情報の項)に記述されるべきである。これらには人的な要素(ストレス、疲労)と体制に関わる問題(研修・教育)に関わる問題が含まれる。

3.1.9 投薬過誤を推測しない

症例報告に明確に記述されていない情報に対して、具体的な投薬過誤の用語を選択することは認められるか?

例)「看護師が薬剤Xを50 mg投与した。」とのみ記載された報告:
二人の用語選択の担当者は以下の異なった用語選択を行った。
 ●   一人の担当者は症例報告が行われたということは何らかの誤りがあったのだと考え、LLT「誤用量投与(Incorrect dose administered)」を選択した。

 ●   もう一人の担当者は、このLLT「誤用量投与(Incorrect dose administered)」を選択する場合には、用量についてより多くの情報が症例報告に含まれるべきであり、このLLT「誤用量投与(Incorrect dose administered)」を選択すべきではないと述べた。

選択されたLLTは、症例報告に記載された情報のみを反映すべきである。症例報告に殆ど明確に記述されていない場合は、投薬過誤を推測すべきでない。

 ●   上記の例では、報告に50 mgの薬剤Xが投与されたとだけ記載され、誤用量については記載されていないのにかかわらず誤用量についてのLLTが選択された場合、それは用語選択の担当者が報告に含まれない情報に基づいて用語選択を行なったことを意味する。理想的には、データ入手の時点で、投薬過誤として報告する理由が記述情報欄(例.「患者に処方用量より多い50 mgが偶発的に投与された。」)に含まれるようにすべきである。

3.1.10 医療機器使用法過誤 vs. 医療機器の不良

医療機器使用法過誤(device use errors)と医療機器の不良(device malfunction)の違いは何か?

報告に、そのインシデントが医療機器の問題なのか、医療機器使用法過誤なのかを判断するための十分な情報がないことがある。
報告が、医療機器の問題と医療機器使用法過誤のどちらなのかは非常に重要な違いなので、これを明確化すること。報告された情報を、言葉どおりに用語選択するよう努め、推測は避けること。


3.2 投薬過誤の用語選択事例

この項では、種々に分類された投薬過誤を用語選択するにあたり、その例示を提供している。
各々の表は、次のように構成されている。

●   第一列には報告されたシナリオを記載
●   第二列にはこのシナリオがMTS:PTC文書でいうところの投薬過誤とみなせるか否か(Yes/No)、あるいは提供された情報からは判定できない(Unknown)旨を表示(凡例、Yes: 投薬過誤、No: 投薬過誤ではない、Unk.: 判定不能)
●   第三列では選択されたLLTおよび必要に応じてPTもしくはHLTを提供
●   第四列には補足コメントと用語選択に関する説明を記載

LLTは、複数のカテゴリーに分類されることもあり、その概念の表示が複数の表で重複するかもしれない。


3.2.1 偶発的製品曝露

シナリオ 投薬
過誤
か?
LLT コメント
他人から剥がれ落ちた経皮吸収パッチが小児に張り付いたことによる偶発的製品曝露の結果、小児が死亡した。 Yes 子供の偶発的製品曝露
医療用パッチ粘着力の問題
この例では、粘着力不足が、原因となる品質の問題である。死亡は転帰として示される。
処方されたオピオイド及びヘロインを過量に服用し、自殺を試みた。 No 企図的多剤過量投与
自殺未遂
過量投与を企図しているため、投薬過誤ではない。
気分を高揚させるためにストリートヘロインを服用し、ヘロインの過量服用で死亡した。 No 過量投与
アヘン類乱用
過量投与が企図的かは不明である。このシナリオは投薬過誤ではなく薬物乱用の背景があることから、偶発的過量投与の用語選択をしてはならない。死亡は転帰として示される。
父親がオートインジェクターで子供に薬の投与を行う際に、うっかり自分の親指に注射してしまった。 Yes 投与中の薬剤による偶発的曝露 親は投与対象である患者ではなく、偶発的に薬剤に曝露された。選択されたLLTは、報告された特異的な情報(例.薬剤投与中に生じた偶発的な曝露)を示す。
視力障害のある患者が、ボトルの中の錠剤と同じ色及び同じ大きさの乾燥剤チューブを誤って飲み込み、窒息した。 Yes 偶発的製品乾燥剤誤飲
製品外観の混同
息詰まり
要因である外観が類似した製品の混同のみならず、偶発的曝露と捉えられる。LLT「視力障害」は病歴として示される。
2歳の小児が、台所の調理台に偶然置き忘れていた抗生剤を服用した。 Yes 子供の偶発的薬剤摂取  
若者が気分を高揚させるために、15分未満で鼻から200回分を吸入し、過量服用で死亡した。 No 薬物乱用
過量投与
乱用による過量投与は投薬過誤ではなく、治療的な使用を示唆する企図的誤用でもない(これはMTS:PTC 3.16の表を参考にすること)。死亡は転帰として示される。
成人が2錠(100mg(力価)/錠)服用した。 Unk   これは有益な報告ではなく、さらに情報を収集すべきである。この事例に用語選択をするものはない。
成人が背部痛のため、推奨用量である1錠(100mg力価)ではなく、企図的に2錠服用した。 No 服薬量変更による 企図的誤用 企図的誤用の例であり、投薬過誤ではない

3.2.2 その他の投薬過誤および問題

シナリオ 投薬
過誤
か?
LLT コメント
薬剤師は、製品表示がわかりにくいため、患者が誤った剤形を受け取ってしまう可能性があると報告した。 Yes 投薬過誤につながる 状況または情報
製品表示の混同
誤った剤形
報告には誤った製品が実際に調剤された又は投与されたとの記述がないことから、これは投薬過誤の潜在的可能性についての例である。LLT「投薬過誤につながる状況または情報」は、その過誤が潜在的な可能性であることを示している。報告された潜在的な投薬過誤のタイプを表わす最も特異的な用語と、その要因である製品表示の混同について用語選択されるべきである。
患者はシリンジを用いて、自分のペン型注入器からインスリンを抜き出してしまった。これは患者が注入器の投薬量表示窓の外側にある数字に混乱し、ペン型注入器で過量のインスリンを誤って投与したくないと思ったためであった。 Yes 使用医療機器の誤り
製品デザインの混同
患者は、ペン型注入器の表記によってまず混乱し、過誤を避けるために、誤った医療機器を使用している。患者の混乱とその結果生じた誤った医療機器の使用は、共に投薬過誤に含まれる。そのため、企図的医療機器誤用の用語を追加する必要はない。
患者は自身のインスリンのペン型注入器のカートリッジをバイアルとして使用し、低血糖が発現した。患者は、シリンジにインスリンが残っており、無駄にしたくなかったためにそのようにしたのだと報告した。 No 企図的医療機器誤用
低血糖
企図的誤用の例である。治療目的で使用されているが、投薬過誤については言及していない。
薬剤師は薬剤とは適合しない誤ったアダプターを選択した。薬剤をバイアルからバッグへ移すためにアダプターを使用した際に、アダプターが溶け始めた。 Yes 使用医療機器の誤り
薬物と医療機器間の不適合
誤った医療機器の使用および医療機器と薬剤との不適合という二つを示す。
患者が使い方を誤解し、ペン型オートインジェクターを使用した際に、推奨とされる10秒間を待たなかった。 Yes 医療機器使用過程に おける誤った技法 LLT「医療機器使用法過誤」は、LLT「医療機器使用過程における誤った技法」よりも広義の用語なので選択しないこと。
薬局のソフトウェアに用量計算の仕組みが内蔵されていたが、それは薬局によって誤ってプログラムされていた。そのため、子供が誤った用量で服薬してしまった。 Yes 用量算出過誤
薬剤投与量過誤
入院中、患者に詳細不明の投薬過誤があったが、有害事象は認められなかった。 Yes 投薬過誤 情報量が十分な報告ではないが、LLT「投薬過誤」で示される例である。MTS:PTC*に従うと、臨床的影響がない投薬過誤の場合、好ましい選択肢は投薬過誤の用語のみである。他の選択肢として、投薬過誤の用語に加えてLLT「副作用なし」を選択することも可能である(MTS:PTC 3.21参照)。

*JMO注):MTS:PTC 3.15.1.2「臨床的影響を伴わない投薬過誤および潜在的投薬過誤」も参照すること。
医療従事者は欠陥のあるモバイル医療機器(アプリケーション)を使用し、患者のインスリン必要量を間違って算出したため、誤った用量を投与した。 Yes

*
モバイル医療アプリ ケーションの問題
用量算出過誤
薬剤投与量過誤
モバイル医療アプリケーションの問題が、用量算出過誤とそれに引き続く投与量過誤の原因である。

*医療機器の問題に続発
患者は錠剤を分割した(製品表示には、錠剤の分割をしないように注意喚起する指示はない)。 No この報告は投薬過誤について言及しておらず、むしろ、製品表示は錠剤の分割をしないよう指示してはいないことを理由に、本報告が投薬過誤のシナリオではないことを示している。提供された文中には、用語選択すべきものはない。
処方者は、錠剤の製品表示にそのまま飲み込むことが記載されていることに気付かずに、患者に錠剤を分割するよう勧め、患者は錠剤を分割した。 Yes 処方過誤
誤って分割した錠剤
これは処方過誤であり、その結果患者は錠剤を分割してしまった。処方者が錠剤を分割すべきでないことに気付かなかったことに起因することから、これは適応外使用ではない。
患者は薬剤Aにすべきだが、代わりに薬剤Bを入手していた。どこで過誤が発生したかは明確ではない。 Yes 誤った薬剤 これは「誤った薬剤」の投薬過誤である。その過誤がどこで起きたのかについては述べられていない(例.処方時、調剤時、投与時など)。
内科医は代替品のないブランド製品を明記して処方したが、誤ってあるジェネリック医薬品で代用された。 Yes 製品代替過誤
(HLT「投薬過誤、製品使用過誤および問題NEC」)
患者は製品表示に推奨された廃棄方法ではなく、口の開いたゴミ箱に医療用オピオイド貼付剤を捨てた。患者の子供が貼付剤で遊び、過量のオピオイドに曝露された。 Yes 薬剤の誤った廃棄
子供の偶発的製品曝露
偶発的過量投与

3.2.3 製品使用過誤および問題

3.2.3.1 投薬欠落

MedDRAの用語概念によると、投薬欠落は患者に指示された投与量が次の投与までに投与されなかったことを指す*。ただし、患者自身が服用を拒絶した場合や臨床的判断(例:禁忌)または、投与しない理由(例:検査が必要など)がある場合を除く。
修正や分析のために、一般的に投薬欠落が認められた場合は投与過誤の疑いを考慮すべきである。投薬過誤が考慮されない投薬欠落のシナリオに対しては、投薬欠落と投薬過誤とを区別をするためにLLT「治療中断(Therapy interrupted)」のような用語を使用すべきである。LLT「治療中断(Therapy interrupted)」/ PT「治療中断(Therapy cessation)」はHLT「治療手技NEC(Therapeutic procedures NEC)」に含まれ、投薬過誤の概念には含まれない。

 * JMO注):「投薬欠落」が記述されたシナリオの MTS:PTC 3.15.1.2「臨床的影響を伴わない投薬過誤および潜在的投薬過誤」も参照すること。

シナリオ 投薬過
誤か?
LLT コメント
プランジャーが動かなかったため、医療従事者は二つのシリンジの内容物を混和することができなかった。その結果、二つのシリンジの結合箇所で液漏れが生じた。プランジャーの欠陥が投薬欠落を招いた。 Yes 投薬欠落
シリンジの問題
これは投薬過誤につながる製品品質の問題の例である。
看護師がバイアルに含まれる有効成分の調製に希釈液を使用せず、その希釈液を誤って患者に投与してしまったため、患者は所定量の薬が投与されなかった。 Yes 投薬欠落
不適切な再調製技法
( PT 「製品調製過誤」)
薬剤誤投与
このシナリオでは、調製過誤が投薬欠落を引き起こしている。
投薬の欠落 Unk 投薬欠落
( PT「投薬欠落」)
薬局に薬の在庫がなかったため、患者は1週間治療が受けられなかった。 No 治療の一時中断
製品供給力の問題
この事象は企図的ではなく投薬過誤でもない。LLT「治療の一時中断」を使用し、そして治療の一次中断を引き起こした外的要因を示す。
包装中の錠剤数が不足していたため、患者は抗生剤の服用を欠落せざるを得なかった。 Yes 投薬欠落
製品包装量の問題
この投薬が欠落するという事象は、製品包装量の問題に起因する。
患者は経済的な余裕がなかったことから、今週は薬剤を服用しなかった。 No 薬剤の費用負担不能
治療の一時中断
誤った投薬欠落及び企図的投薬欠落ではない。LLT「治療の一時中断」を使用し、そして治療の一次中断を引き起こした外的要因を示す。
患者は医療処置が予定されていたため、午後の服用を保留した。 No 企図的投薬欠落 これは企図的な投薬欠落の例である。
患者は忙しかったため、夕方分として処方されたインスリンの投与をスキップした。 No 企図的投薬欠落 これは患者による、企図的な投薬欠落の例である。
患者は処方された薬剤を服用し、赤色のそう痒性皮疹が認められたため、残りの薬剤を服用しなかった。 No そう痒性皮疹
患者による治療中断
有害事象による治療中断は、過誤または企図的誤用とはみなさない。
患者は処方された抗精神薬を常習的にスキップしていた。 No 治療非遵守  

3.2.3.2 その他の使用過誤および問題

シナリオ 投薬過
誤か?
LLT コメント
患者は1回1錠、1日1回と処方されていたが、誤って1回1錠、1日2回服用した。 Yes 定められた1日1回の服薬回数よりも多い服薬 可能であれば、PT「不適切な薬剤投与計画」に合致するLLTよりも、報告されたシナリオに対してより特異的なLLTを選択することが重要である。そしてそれが、LLTレベルでのより詳細な分析を可能にする。
事象が偶発的であることは示されていないが、本LLTはHLT「製品使用過誤および問題」の下位に配置されている。
ブリスターパックから取り出す時に錠剤が砕けてしまったが、そのまま患者に投与された。 Yes

*
錠剤の物理的問題
品質不良薬剤の投与
このシナリオでの「砕けた錠剤」は製品品質の問題(LLT「錠剤の物理的問題」)である。LLT「誤った錠剤粉砕」のような投薬過誤を表す用語を選択してはならない。この過誤は、品質問題(砕けた)があると認識された製品が、患者に投与されたことにある。

* 製品品質の問題に続発
シリンジのプランジャーが完全に押し下げられなかったため、患者は所定量の半分しか投与されなかった。 Yes

*
シリンジの問題
医療機器による誤用量投与
医療機器の問題と、それに続発した投薬過誤の両方について示す。

* 送達機器の問題に続発
患者は指示された使用方法に従ったが、ペン型注入器が詰まり注射液のほとんどを手に飛び散らしてしまったと報告した。 Yes

*
医療機器送達システム機能不良
投与中の薬剤による偶発的曝露
皮膚接触を介した曝露


* 送達機器の問題に続発
禁忌の薬剤を服用している患者 Unk 禁忌薬剤投与 患者が禁忌の薬剤を服用していることについて述べられている。その状況については情報が提供されていない。
薬剤は推奨されている上腕筋ではなく、腹部に投与された。 Unk 不適切な部位への薬剤投与
患者は誤って薬剤を過量に服用してしまったため、過量投与で生ずる可能性のある症状について尋ねた。 Yes 規定量以上の投与 患者は過量投与の症状のみを尋ねている(過量投与についての報告はしてない)。LLTは偶発的であるとは示していないが、HLT「製品使用過誤および問題」の下位にある。
患者は期限切れの頭痛薬を服薬したと報告した。 Unk 期限切れの薬剤使用
看護師が注入ポンプの薬剤送達時間を50分に設定するつもりだったが、誤って5分とプログラミングした。その後、患者は呼吸停止した。 Yes 速すぎる投与速度
医療機器の不適切なプログラミング
呼吸停止
患者は静脈内投与の造影剤を投与されるはずであったが、経口造影剤が投与された。この経口造影剤は誤って末梢静脈から投与された。 Yes 誤薬投与
別経路からの経腸剤投与
患者は亀裂の入ったインスリンカートリッジを使用した。その結果投与量が不十分であった。 Yes 医療機器による誤用量投与
カートリッジ亀裂

3.2.4 製品の混同に関する過誤および問題

シナリオ 投薬過
誤か?
LLT コメント
製品包装の混同のため、患者は薬剤Xではなく薬剤Yを調剤された。薬剤Xと薬剤Yは似た外観包装をしている。 Yes 製品包装の混同
誤った薬剤の調剤
表示の混同のため、患者は5gの薬剤Xではなく10gの一般用医薬品の薬剤Xを購入した。 Yes 製品表示の混同
誤った薬剤含量の選択
毎日服用しているビタミン剤と錠剤が全く同一の外観であったため、患者は思わず誤った薬剤を一週間服用した。 Yes 外観の似た錠剤
誤薬投与
5mg/mlの製品と50mg/mlの製品との取り違え Yes 誤った含量 患者が薬剤を投与されたかどうかは明確ではない。
含量は製品に付随しており、用量は患者が受け取る、もしくは受け取るべき薬剤量である。
内科医が電話で薬剤を指示した際に、薬剤師は、薬剤名を”Drillo”と聞き違えたため、患者は”Millo”ではなく、”Drillo”を調剤された。 Yes 発音の似た薬剤名
誤った薬剤の調剤
誤った塗り薬を塗布した後、患者は皮膚潰瘍形成を認めた。この過誤は、類似した赤印字と黒地で同じ大きさのチューブに包装された塗り薬のせいとされた。 Yes 製品包装の混同
誤薬投与
皮膚潰瘍形成
看護師は、製品には10分以上かけて緩徐に点滴するための静注バッグを用意するように表示されていることに気付いていたが、それはプレフィルドシリンジに入っており、間違えて直接静注でボーラス投与をする可能性があった。 Yes

*
製品包装の混同 医療機器使用法過誤につながる状況または 情報
誤った投与速度
過誤の可能性および寄与因子を捉える。


* 過誤の可能性

3.2.5 調剤過誤および問題

シナリオ 投薬過
誤か?
LLT コメント
患者は、ジェネリック医薬品が先発医薬品と同じようには効かないと不満を述べた。 No 先発品から後発品への製品代替の問題
薬効低下
これは製品品質の苦情である。
ジェネリック医薬品がブランド名の製品の代替とされた。 Unk 製品代替
(HLT「治療手技NEC」)
報告されたことのみを用語選択する。この報告は過誤を特定していない。
患者は、薬局から期限切れの貼付剤を受け取った。 Yes 期限切れの薬剤の調剤
クリニックがバイアルに誤った指示を記載したため、患者はその薬剤を定められた週1回の服用ではなく1日1回服用した。 Yes 誤った指示が記載された薬剤表示
(PT「調剤過誤」)
定められた週1回の服薬回数よりも多い服薬
その薬剤は元の容器で調剤されなければならないとラベルには表示されていたが、その薬剤はその容器で調剤されなかった。 Yes 元の容器で調剤されなかった薬剤
処方箋が判読できず、薬局は誤った薬剤含量を調剤した。 Yes 誤った薬剤含量の調剤
処方転写過誤
LLT「処方転写過誤」は「判読し易さ」の概念を包含する。
薬局は、推奨される保管情報が不鮮明となったラベルの薬剤を調剤した。製品は誤った温度で保管された。 Yes 調剤過誤
誤った箇所への薬局ラベル貼付
製品保管過誤

3.2.6モニタリング過誤および問題

シナリオ 投薬
過誤
か?
LLT コメント
患者の国際標準比(INR)がラベルに推奨された通りにモニターされていなかったため、患者は血栓塞栓症で入院した。 Yes 薬剤モニタリング
手順非実施
血栓塞栓症
患者は、薬物-薬物相互作用がラベル表示された二つの薬剤を服用した後、横紋筋融解症を発現した。 Yes 表示された薬物-薬物相互作用による投薬過誤
横紋筋融解症
文献報告から薬物相互作用によって患者が低血圧を発現する可能性があるとする仮説が述べられた。 No 薬物相互作用
低血圧
患者は、手術中にアモキシシリンを投与された後に1型過敏症を発現した。その患者の電子カルテには、アモキシシリンアレルギーの既往歴が記載されていた。当該過誤は、麻酔のソフトと病院の電子カルテとの間での相互連携の運用が欠如していたためとされた。 Yes 1型過敏症
投与薬に対する記録された過敏症
医療機器のコンピュータソフトウェア問題
抗凝固剤を服用中の患者は、ラベル表示に推奨されているような術前の投与中止をせず、術後に出血した。 Yes 投薬モニタリング過誤
投薬中止の失敗
術後出血
医療従事者は、薬物相互作用の可能性に気が付かなかったため、薬物相互作用が知られる二種類の薬剤を処方した。 Yes 表示された薬物-薬物相互作用による投薬過誤
処方過誤

3.2.7 製品調製過誤および問題

シナリオ 投薬
過誤
か?
LLT コメント
介護者は、インスリンペン型注入器を準備する際に、内側の針カバーを注射針から外すことに気付いていなかった。 Yes 使用準備中の製品
組立過誤
選択されたLLT「使用準備中の製品組立過誤」は、LLT「医療機器使用法過誤」に比べて報告された情報に対してより特異的な用語である。
製品は誤った希釈液で調製された。 Yes 誤った溶解液による調製
薬局は誤った含量の製品を配合した。 Yes 製品配合過誤
誤った含量
患者は2つのコンポーネントからなる製品の1つのコンポーネントのみを受けた。なぜなら、看護師が投与前に二つのコンポーネントを混合する必要があることに気付かなかったためであった。 Yes 製品調製過誤

2つのコンポーネントからなる製品の1つのコンポーネントのみの使用
ラベル表示にある二つの有効成分含量の記載方法に関連した混同のため、薬局は間違った濃度で調製した。 Yes 誤った濃度調製
製品表示の混同
調剤技師は、溶解後にバイアルの内容物を5分間混和するという指示に従わなかった。 Yes 製品調製過誤 LLT「製品調製過誤」(HLT「製品調製過誤および問題」の下位)は、LLT「製品使用過程における誤った技法」(HLT「投薬過誤、製品使用過誤および問題NEC」の下位)」より特異的な用語である。
呼吸療法士は、誤った方法で二酸化炭素吸収装置を吸入器に接続した。 Yes 使用準備中の製品
組立過誤

3.2.8 製品処方過誤および問題

シナリオ 投薬
過誤
か?
LLT コメント
薬剤は誤って不正使用で処方された。 Yes 処方過誤 これは処方過誤である。適応外使用は、処方過誤に加えて用語選択されるべきではない。適応外使用は企図的行為であり、過誤ではない。
薬剤名の発音が似ていたため、薬剤Yではなく、薬剤Xを処方された。 Yes 処方過誤
発音の似た薬剤名
根本原因としての混同を特定することが可能であることが重要である。
0.4 mg/kgではなく、4 mg/kgで処方された。処方者はすぐに気が付き、看護師に電話したが、看護師は既に薬剤を投与していた。 Yes 用量処方過誤
薬剤投与量過誤
過誤は検出されたが、回避が間に合わなかった。
患者は別のインスリン製剤に変更されたが、処方箋に用量調整が記載されていなかった。誤用量を投与された患者は低血糖を発現した。 Yes 用量処方過誤
薬剤投与量過誤
低血糖
コンピューター化オーダーエントリーシステムのエラーのため、患者は適量の倍量を処方された。 Yes 用量処方過誤
CPOE過誤
難治性痙攣発作で複数の薬剤を服用している患者に、禁忌薬剤を処方された。 Unk 禁忌薬剤の処方 LLT「痙攣発作」は病歴として捉えられるべきである。
患者は1 mgの錠剤を半錠に分割した0.5 mgを処方された。 Unk 報告された情報の中には用語選択する事象はない。これが処方過誤、適応外使用あるいはどちらでもないのかは不明である。もし、これが唯一の情報であれば、これは事例ではなく、記録すべきではない。
患者は、長年不眠のため、1日1錠の薬剤を処方されていた。その製品の使用上の注意には、この製品は2週間以上服用すべきではないと記載されている。 Unk 不適切な処方
詳細不明のアヘンを不適切に漸減*(downtitrated)された後、患者は離脱症状のために入院した。 Unk アヘン離脱症状
不適切な薬剤漸増漸減 *
患者は、0.25 mgの用量(適応外の開始用量)を処方された。 No 適応外用量投与
内科医は静脈内注射薬について誤った投与速度を指示し、患者は低血圧を発現した。 Yes 誤った投与速度
低血圧
処方過誤
患者が妊娠した際に、神経内科医は徐放性製剤の投与を、推奨される1日1回ではなく、1日2回(適応外)に変更した。 No 適応外使用
未承認の投与レジメンでの薬剤使用
処方者は2つの薬剤が同じ有効成分を含むことに気付かなかったため、患者は偶発的に重複した治療を受けた。 Yes 薬剤重複処方過誤
重複治療過誤

 * JMO注):シナリオ中の「アヘンの不適切な漸減 (downtitrated)」に対して、LLT「Inappropriate drug titration (不適切な薬剤漸増漸減)」の日本語表記はバージョン22.0に基づく。

3.2.9 製品選択過誤および問題

シナリオ 投薬
過誤
か?
LLT コメント
白内障のため、患者は目が不自由であり、小児用製剤を買ってしまった。 Yes 製品選択過誤 これは製品名の混同ではない。白内障は病歴として捉えてよい。
薬剤名を混同したため、薬剤師は誤った薬剤を選択したが、当該過誤は薬剤の調剤前に発覚して訂正された。 Yes 回避された誤った薬剤の選択
薬剤名の混同
過誤の原因を捉えることは重要である。
病院が誤った血液バッグを選択し、患者は手術前と手術中に誤った血液型の輸血を受けた。 Yes 誤った製品の選択
不適合輸血
店員は卸売業者に誤った薬剤を発注した。その薬剤は医薬品発注カタログ中で隣に掲載されており、薬剤名が非常に類似していたからである。 Yes 誤った薬剤の選択
文字の似た薬剤名

3.2.10 製品保管の過誤および問題

シナリオ 投薬
過誤
か?
LLT コメント
医療施設は、30日の推奨期間を越えて調製した薬剤をシリンジ内に保管し、それを患者に投与したことを報告した。これらのシリンジの1つを使用した患者が、薬剤が効かなかったと報告した。 Yes 未使用製品の不適切な保存
期限切れの薬剤投与
薬効欠如
LLT「品質不良薬剤の投与」は選択されるべきではない。なぜなら、選択されたLLT「期限切れの薬剤投与」の方が、より特異的な用語だからである。
ワクチン製品が薬局において、指定された温度以上で保管されていた。 Yes 高すぎる温度の製品保管過誤 この過誤は製品使用システムの中で発生したことから、投薬過誤である。
薬剤が不注意で誤った棚に置かれていたため、薬局の従業員はそれを見つけることができなかった。 Yes 誤った場所での薬剤保存
卸売業者が閉店していた週末にかけて、製造業者から送付された薬剤箱が、指定された保管温度以上で屋外に放置されていた。 No 製造製品保管の問題
(HLT「製品流通および保管の問題」、SOC「製品の問題」)
この保管の問題は投薬過誤ではない。なぜなら、製品が薬物使用システムに到達する前に、製造、流通および保管活動下で発生したからである。
薬局は、患者が入院中に届くように薬剤を交付した。その薬剤包装は、2日間氷点下の温度で屋外に置かれた(当該薬剤は凍結させるべきではない)。 Yes 低すぎる温度の製品保管過誤 この過誤は製品使用システムの中で発生したことから、投薬過誤である。
製造者は、卸売業者によって不適切な保管状態にさらされていたことが判明した薬剤Xの特定ロットの回収を発表した。 No 製造製品保管の問題
回収対象製品
この保管の問題は投薬過誤ではない。なぜなら、製品が薬物使用システムに到達する前に、製造、流通および保管活動下で発生したからである。
薬局は間違って、誤った薬剤を自動調剤装置に保管した。報告者は、当該過誤が生じた原因について、二つの薬剤が似た容器表示で同じような大きさのバイアルに包装されていることを挙げた。 Yes 似た薬剤表示
誤った薬剤のストック
製品包装の混同

3.2.11 製品の処方転写過誤およびコミュニュケーションの問題

シナリオ 投薬
過誤
か?
LLT コメント
医療従事者は薬剤Aの処方を電話で伝えたが、薬局は処方箋に薬剤Bと記載した。 Yes 処方転写過誤
データ入力過誤のため、薬局は有効成分600 mgではなく800 mgで調剤した。 Yes 製品データ入力過誤
誤った薬剤含量の調剤
内科医はインスリン ペン製剤を指示したが、薬局で処方転写過誤が発生し、患者は代わりにシリンジ付きインスリン バイアル製剤を調剤された。 Yes 処方転写過誤
誤った医療機器の交付
患者はコミュニケーションの問題があり、自閉症の疑いと診断された。 No コミュニケーション障害
自閉症
例示では「問題」と「コミュニケーション」という用語が含まれるが、これは投薬過誤ではない。これは、LLT「製品コミュニケーションの問題」ではなく、むしろLLT「コミュニケーション障害」で捉えるべきである。